第542話 消滅現象

消滅現象




車のライトが重なる時、道路を渡っていた人が光で見えなくなる現象




ある道路を車で通った時




辺りは田んぼばかりで、見晴らしがよかったため、気楽に運転していた




道は狭かったが、そもそも車通りすら少ないので問題なかった




夜中のドライブのような感じだ




「お、珍しいな」




向こう側から車が来た




アップライトにしているのか、まぶしくて相手の車種は分からない




と、相手のライトに映されて道路の真ん中に人影の様なものが見えた




距離があったため、通行人だとしてもすぐに道を渡り終えると思われた




「あれ?」




しかし、その人影は動かない




そして、自分の車と相手の車のライトによってその人影が一瞬見えなくなる




ドンッ




何かにぶつかる音がした




自分の車では無いので、相手の車がさっきの人影を轢いたのかもしれない




とっさに車を停め、車を降りる




相手の車はそのまま走り去った




「ひき逃げか!」




そう思ってすぐに警察に電話をした




しかし、警察の電話がおかしい




「あー、そこですか。大丈夫ですので、そのままお帰り頂いて結構ですよ」




「ひき逃げですよ?!」




「よくあるんですよ。特に初めて通る人には」




「よくあるのであれば尚更じゃないですか!」




「いえね……その、言いにくいのですが、被害者は居ないと思いますよ?」




「はっきりとぶつかる音がしたんです! 早く来てください」




「それじゃあ、轢かれたと思われる場所に何か痕跡の様なものはありますか? ぶつかった車の破片ですとか、その、血痕ですとか」




私はそう言われ、すぐに現場を確認する。車に乗せてあったライトで道を照らす




しかし、何もない。轢かれた人どころか、あれだけの音がしたのに割れたバンパー一つ落ちていなかった




それどころか、ここに居ると徐々に気温が下がってきている様な気がする




「どうです? 何も無いのであれば、早く離れたほうがいいと思いますよ。あまり長く居続けると、見なくていいものまで見てしまう人も居るので」




そう言われ、暗闇から今にも何かが現れそうで怖くなった




すぐに車に乗って立ち去る




バックミラーを確認すると、一瞬だけ何か黒いものがゆらりと揺れたような気がした




それ以来、その道を通ることは無いが、地元では有名な「でる」場所だったらしい




不思議なことに、それは車同士がすれ違う時にしか現れないそうだ


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