第510話 井戸端会議
塀に囲まれた家が並んでいる場所で
歩いていると、塀の向こうから話が聞こえた
「昨日の地震はひどかったわね」
「そうね。古い家が潰れて一人亡くなられたらしいわね」
(昨日地震なんてあったっけ?)
特段大きな声ではないが、私の耳にスッと入ってくるような会話だった
私はその時、気にせずに通り過ぎただけだった
それから夕方になり、震度5の地震が起きた
ちょうど夕飯時間ということもあり、家にいた人が多かったのだろう
家具などが倒れたりしてケガをした人が多かったらしい
そして、速報で一軒の家が潰れ、そこに住んでいた住人が家の柱に潰されて亡くなったらしい
(これ、今朝の会話そのものじゃない!)
私はぞっとした。まだ起きていない事を話す女性たち
次の日、同じ時間帯にまた同じ場所を歩いてみた
今日は仕事のある日だったけれど、こちらの方が重要だと考えて休んだ
「交通事故で歩行者が3人轢かれたのは可哀想だったわね」
「そうね。母親と小学生の男の子と女の子の家族らしいわね。不運にも母親と女の子が亡くなって、男の子は重体らしいわね」
(交通事故? そんな大きな事故ならニュースなり新聞に載るはず。もしかしたら、またこれから起きる事なんじゃ)
私は失礼だとは思ったけれど、塀によじ登って会話している女性を見ようと思った
しかし、塀をよじ登ろうとしたところでピタリと会話が止まった
少しして塀の上に顔を乗せると、塀の向こうには誰も居なかった
その代わり、白猫と黒猫が仲良くお昼寝しているのが見えた
私はさっきの話の真実を確かめるために人通りの多い場所を歩いた
母親と小学生くらいの男女なら、見つけやすいはずだ
平日という事もあり、そんなに人は歩いていない。それに、小学校が終わるのは午後の2時から3時くらいだろう。近くの小学校に狙いを絞って待機する
しばらくして、母親と黄色い帽子をかぶった小学生の男女が校門から出てきた
「あの!」
私は思い切って話しかけてみた
「な、なにか……?」
不審者と思われたかもしれないが、幸い私の風貌は普通の女性だ。これが男だったらすぐに逃げられていたかもしれないけど
「この辺でスピードを出す車が多いから車に気を付けた方が良いですよ。できれば、いつもと違う道を帰られたらどうですか?」
「わかったわ。ありがとう」
少し怪訝な顔をされたので、無視されるかと思ったけど素直に私のいう事を聞いてくれた。子供たちもいつもと違う道で帰るのも面白いと乗り気だったのもあるかもしれない
それからしばらく他に3人組が居ないか待ったけれど、他には居なかった
次の日、すぐにニュースを新聞を確認したけど、事故は無かったようだ
会社には少し遅刻すると言って昨日の場所へ向かった
「残念。昨日は事故が起きなかったらしいわよ」
「残念ね。それじゃあ……」
私はすぐに塀の上に登った。すると、白猫と黒猫がこちらを睨んでいるのが見えた
私は思わずブルッと震えてすぐにその場を立ち去った
それ以来、そこで女性たちの会話が聞けることは無かった
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