第485話 ハサミ

錆びたハサミが落ちていた




小学生の私には片手に収まらないくらい大きなハサミだ




「これ、誰のだろう?」




錆びているから、落ちてから大分時間が経っているのかと思ったけれど、持ち手は比較的新しいように見えた




刃の部分は少し茶色く汚れていて、それがそのまま錆につながっているように思えた




「ああ、こんなところに落ちていたのか。拾ってくれてありがとう」




声のした方に振り向くと、帽子で顔は見えないけれど、コートがおしゃれな男性だと思う




「落ちていました。どうぞ」




私は刃の部分を自分に向け、その人に渡す




「しっかりしているね。ありがとう。そうだ、お礼に何かごちそうしよう。このハサミは大事なものでね」




「そうだったんですか。それは見つかってよかったですね。お礼は大丈夫です」




「そう言わずに。まるで私がお礼もしない薄情者に見えるじゃ無いか」




「そんなこと無いですよ」




なかなか引き下がらない男性に、私は結局折れて少しだけお菓子を買ってもらう事になった




「こっちから行こう。近道なんだ」




その道は狭く、人が一人通れるかどうかという狭さ。確かに近道だけど、人目につかないから普段は通らない道だ




「でも……」




「私がついているから大丈夫さ」




そう言って私の背中を押して通路に押し込んだ。私はしぶしぶ、少しでも早く抜けようと早歩きで行く




「そんなに急がなくても大丈夫だよ」




それでも私は速度を落とさない




「仕方ないな」




男性がそう言った瞬間、私の耳にちくりとした痛みが走った




「痛いっ」




「ほら、走るから照準がずれたじゃないか」




男性が持っていたハサミに、少しだけ私の血が付いていた。あれで斬られたの……?




私は怖くなって急いで走る




あと少しで道を抜けると思ったところ、左肩を掴まれた




「逃げるなよ」




そのまま引き戻される




「助けて!」




私は叫んだ。今の時間なら、誰かが通りかかるかもしれないという期待を込めて




「叫ぶな」




男はそう言って私の口を塞いだ。そして、もう片方の手でハサミを掴み、私に振り下ろす




「何をしている!」




私に刺さる寸前で、男はピタリとハサミを止め、逃げ出した




「あ、ありがとうございます……」




「危ない所だったね」




助けてくれた男性にお礼を言う。その後、交番に連れて行ってもらって経緯を伝えた




その後、病院へ行って傷を縫ってもらうことになった。幸い、深い傷では無かったようだ




ちょうど流れていたニュースによると、この付近で少女の耳を切り落とすという傷害事件が発生していたようだった




犯人はまだ捕まっていないけれど、早く捕まって欲しいと思う




私の耳を縫っている近くで、シャキシャキとハサミを開閉する音がした

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