第479話 食リポ

「うまい!」




何を食わせても「美味い」というリポーターが居た




いろんな番組に呼ばれ、ある時はドッキリとして出されたただの幼虫すら「美味い」と言って視聴者を驚かせた




いつしか、あいつに食えない物は無いとまで言われるようになった




しかし、それを面白く思わない人が世間にはいるものだ




それがある番組のスポンサーであったことは運が悪かったのだろう




「あいつに絶対食えないものを出せ」




そこで考えられた番組が『全部食べたら100万円』という企画だった




誰でも食べられるものから、徐々に食べられないものになり、最終的にはほぼ誰も食べられないものが出される予定だった




最初は卵焼き、次はピーマンの肉詰め、次はブルーチーズと、段々ときついものになっていく




10倍激辛カレー、猿の脳みそ……




彼はどんなものも「うまい」と言って食べていった。それを見ていたスポンサ―会社の社長は、絶対に残すであろうものを用意した




「これはさすがに……」




「いいから。もし、ダメだったらドッキリでしたと別の企画にすればいい」




そう言って押し付けられたものは……食品サンプル




当然、食い物ではない。だが、見た目は本物の食べ物そっくり




そもそもフォークすら刺さらないだろうし、すぐにバレるだろうとドッキリの準備をし始めた時だ




「うまい」




びっくりしてみると、男は食品サンプルを食べきっていた




「バカな! 本当に食ったのか!?」




慌てて尋ねると




「ああ、うまかったよ」




そう言って男は腹をポンポンと叩いて見せた




しかし、どうしても納得いかないのはスポンサーの社長だ。番組が終わり、彼を打ち上げという名目で連れ出した




「おい、白状しろ」




「何をですか?」




人目につかない場所で車を停め、社長は男に詰問した




「最後のあれ、食品じゃなかったのにどうやって食った?」




「あれ、食品じゃなかったんですか……気が付きませんでした」




「ふざけるな! 吐け、どうやったんだ!」




「……私が口に入れていないのがバレてしまいましたか」




「ほらやっぱり、ズルだったんだな。これをばらされたくなければもう二度と番組に出るなよ」




「そういう訳にはいきませんね」




それからしばらくして、車から「うまい」という声と、男の腹からゲップする音が鳴った

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