第420話 迷惑メール

俺は去年、スマホを水没させてデータを全て失った




近くにいた知り合いや、よくやり取りする友人などとはすぐに登録しなおしたのだが




1年たったある日、こんなメールが来た




「久しぶり。元気? 携帯変えたから登録よろしく」




メールアドレスは特に意味の無さそうな文字で、そこからは誰かというのは全く分からない




中身にも誰とは書いてないので、迷惑メールの可能性もあるが、近くにいない友人という可能性も大いにあった




俺は正直に




「悪い、携帯のデータ消えちまってて、誰かわからねぇ。登録しなおすから名前教えてくれ」




と送った。




しばらくして、「みゆき」と送られてきた。あー、やっぱり迷惑メールのほうだったか?




俺の携帯には女子のアドレスなんて母親と元カノくらいで、さすがに元カノの名前くらいは覚えている。だから、これは違うと分かった




「変なサイトに勝手に登録されたりしなきゃいいけど……」




せっかく入れなおしたメルアドを変えたくなかったし、何よりこんな理由で変えたと知られたら馬鹿にされる




何事も無いまま過ぎた数日後、メールが来た




「ね、会いに行っていい?」




みゆきからだった。迷惑メールかもと思ったが、消していなかったのだ。これでも俺は現在彼女募集中で、低い、ものすごく低い確率でもいいから女性とお知り合いになりたかったのだ




「え? どこに居るんだ?」




俺は当然住所や電話番号を教えていない。もし、たまたま適当に入れたメルアドにヒットしただけの迷惑メールなら、俺に会いに来れるはずがない。もしや、詐欺に発展するのか……?




「私は、今駅に居るよ」




駅ってどこの駅だよ……俺はそう思ったが嫌な予感がした。これは、メリーさんのように近づいてくるとかないよな……?




そう思った瞬間、玄関のチャイムが鳴った




「ど、どちらさま?」




あいにく、今日は家に俺以外誰も居ない。宅配か何かであってくれと願いつつ、インターフォンの画面を見るが誰も映っていない




「みゆきです」




ばかな! 一番近い駅からでもゆうに1kmは離れている。さっきメールが来てから1分も経っていない




俺の心臓はドキドキと鼓動をはげしく鳴らしている




「俺の家をどうやって――」




「開けてくれないの?」




俺の言葉を遮るようにみゆきが声を発する。その声だけなら美少女だと断言できるような澄んだ声。まるでアニメかゲームのキャラの様な、耳障りの良い声だった。それだけに、絶対に俺の知り合いでは無いと分かる。そんな印象的な声なら忘れるわけが無いからだ




俺が戸惑っている間に、もう一度みゆきが話す




「ねえ、開けてよ」




「あ、ああ。その前に、顔を見せてくれないか?」




「…………」




しばらく沈黙が続いた。諦めて帰ったのか? そう思った瞬間、画面いっぱいにまるで硫酸を顔にぶちまけられたかのような、溶けた顔が映る




「ぎゃああ!」




俺は慌てて後ろに下がったため、こけて机に頭を強打した。そして意識が遠のいでいく




「勝手に入るわね?」




遠くからみゆきの声がした

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