第410話 痴漢

私は広告代理店で働いているOLだ




仕事で帰りが遅くなり、終電にぎりぎり乗る事が出来た




シートに座ったら寝過ごしてしまいそうだったので、吊革につながっていた




それでも、疲れからか、うとうとしていたところに……




(ヒッ、私のお尻を誰かが触ってる……)




それで一気に目が覚めて、誰かに助けを求めようと見回したが、この車両には誰もお客が乗っていなかった




声を出そうにも、金縛りのように体が硬直し、逃げることも出来ない。そして、触る感触が、お尻から胸に向かってこようとした時、トンネルに入った




窓ガラスに映るのは、スーツ姿の私だけだった




「どうされましたか?」




その時、誰かが声を掛けてきた。すると、金縛りが解けたようだ




「ち、痴漢が……」




そう言って振り向いた時、私のお尻を触っていたはずの誰かも、私に声を掛けてきたはずの誰かの姿も、誰も居なかった




相変わらず、この車両には私以外の誰も居なかった。困惑していると、いつの間にか自分の降りるべき駅に着いたようだ




私は急いで降りて改札を抜ける




「ちょっと、お客さん!」




すると、駅員に呼び止められた。自動改札は開いたから、無賃で呼び止められたわけでは無さそう……と、呼び止めた駅員に近づく




「どうされました? スカートにものすごく手あとの様なものが付いているのですが……」




自分では見えないので、手鏡を受け取り、見てみると確かにスカートにべっとりとした油のような感じで手跡が付いていた




心当たりはあるけど、訴えてもだめだろうと思い




「すみません、大丈夫です……」




と消え入りそうな声で言うのがやっとだった




「そうですか……。昨日、痴漢をしてバレたからと、線路を渡って逃げようとして轢かれた人も居たので、また痴漢でも出たのかと……。ああ、その人は死んではいませんよ? ただ、接触して右手がはじけ飛んだだけで……おっと、余計なことを言ってしまいましたね、すみません」




そう言って駅員は引っ込んでいった




家に帰り、手跡を何とかしようともう一度見た時、手跡は右手だけだったことに気が付いた




今でもその痴漢の右手は、痴漢行為を繰り返しているのだろうか?

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