第405話 傘が

梅雨に入り、雨が降る日が増えた




店を出て傘をさすと、どこからか視線を感じる




振り向いても、誰も居ない




どこからみられているのか全く分からないが、髪の毛がちりちりするような……そんな感じがするのだ




雨が止み、傘を閉じる。すると、視線を感じることも無くなった




俺はその傘を、コンビニの傘立てに入れ、そのまま立ち去った




次の日も、傘をさすと視線を感じる……




その傘も適当な店先の傘立てに入れて……




その次の日も視線が……




ふと、見上げると、傘に目が付いていた




俺はその傘を投げ捨てる。しかし、どの傘を開いても必ず傘に目が付いていた




その目は恐らく、俺が100本目の傘を盗んだ日から……視線を感じるようになった日からついているのだろう




しかし、気持ちが悪いだけでその目は何かをしてくるわけでは無いようだ




それに、傘を閉じて捨ててしまえばそれまでだ




そう思っていたが、気が付くと俺の右手に目が発生するようになった……これではさすがに捨てるわけにはいかない




手袋をしてごまかすが、驚いたことに目には痛覚があり、手袋にこすれていたい




それ以来、雨が降っても傘をさすことは無くなった




「お兄ちゃん、傘を忘れたの? 私の傘を貸してあげる! 私はママと一緒に入るから大丈夫」




小学生低学年くらいの子供が、俺に自分の傘を差しだしてきた。雨に濡れて歩いている俺を不憫に思ったのだろうか?




不思議なことに、その子から借りた傘には、目が付いていなかった




小さい傘だから、自分の体を雨から守るには不足していたが……俺の心の中にあった何かが晴れた気がした




それから、傘に目が付くことも、俺の手に目があることもなくなった。それと同時に、盗み癖も治っていた




今度、その小学生を見かけたら、傘と、何かお礼をしたいと思う


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