第344話 度胸試しで

近所によく吠える犬がいる




吠えるだけじゃなくて、過去には噛まれたやつもいるらしい




小学校で理科室の掃除の時間、男子の間でその犬の話をしていたところ、度胸試しをしないかという事になった




止めた方がいいよと誰かが言うと「小心者」や「ビビリ」、「弱虫」等の悪口を言われ、皆引くに引けなくなった




結局、度胸のあるやつは放課後、その家に集合という事になり、集まったのは5人だけだった




「みんな、結構臆病なんだな」




「はっ、意気地なし共の事なんてどうでもいいだろ。俺が一番度胸があるんだからな」




「何、俺が一番だ」




誰が一番度胸があるかでもめ、さっさと度胸試しに移ることになった




「まずは、犬に1mくらいまで近づくことが最初の度胸試しな」




犬は鎖につながれており、鉄の鎖が切れない限りは襲われることは無いだろう




全員がクリアした




「次は、犬の餌を盗るんだ」




エサは犬の近くに置いてある。しかも、犬はこっちを向いて唸っている




2人が怖気づいて棄権した




後の3人は、一人がパッと近づいてサッと餌を盗ると、後の2人も同じように盗った。犬はエサを盗られて怒っているのか、興奮して吠えている




「犬の頭に触れるのが最後の度胸試しな」




これ以上の度胸試しは無いだろうと、3人はゴクリと喉を鳴らす




言い出しっぺもさすがに手を出したら噛まれる想像が容易くできるため、なかなか手を出せない




「俺がやるから下がってろ」




野球帽をかぶった見知らぬ少年が、犬に近づいていく。そして、犬の頭に手を置いた




「あっ」




犬はその手をバクリと噛み、引っ張る。そして、少年の腕が千切れた




「ぎゃああ!」




それを見てみんな逃げ出した。誰も少年の事を助けようとすることもできなかった




5分ほどして、さすがに放っておくわけには行かないと、何人かが戻ってきたが、千切れた手も、けがをした血痕も何もなく、当然少年も見当たらなかった




次の日、理科室の人体模型の手に犬にかまれた跡があると誰かが言い出した。それは、止めた方がいいよと声が聞こえた場所でもあった


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