第328話 女装

僕には人に言えない趣味がある




それは、女装癖だ




僕はまだ20代で、ひげ等の体毛は薄く、元々色白で後ろ姿が女性と間違われることも多々あった




かっこいいよりかわいいと言われたい、そんな動機で可愛い服装を選んでいるうちに、化粧やエクステ等まで手を出してしまったのだ




今では下手な女子より女っぽいって言われる。この趣味を知っているごくごく少数の知り合いだけだが




冬は特にマフラーやロングスカートなどで肌を隠せることもあり、よく女装をして出かけていた




ある日、デパートに出かけた時の事である。特技の裏声でレジくらいは女性で通せる僕でも、さすがにこのまま堂々と女子トイレに入る度胸は無い




でも、トイレをしたくなるのは仕方が無い




出来る限り人が来ないような階や場所でトイレをするようにしている。それでもたまに同室に女性が入ってくることはあるが、当然覗いたりする趣味は無い。僕はあくまで女装癖であって男性が好きなわけではないし変態でもないと思っている




そして、メンズメインの階で、女性がほぼ居ないのを見計らってトイレに入った




個室に入り、トイレを済ませ、さあ出ようとした時に誰かが入ってきた




さすがに面と向かって出るのもためらわれたため、個室で息を殺すことにした




個室は二個あり、僕は奥の方だったため、何もなければ入ってきた女性は手前の個室に入り、それと入れ替わりに僕が出れば無事脱出できるはずだ




しかし、その女性は手前の個室に入らずに奥の方へ来た




コンッコンッ




ドアをノックされ、さすがに無人で済ませることも出来ず、コンッコンッとノックし返した




しかし、またコンッコンッとノックされる。まさか、不審者だと思われたのだろうか




「はいってます」




出来る限り女性の声で返事をした。自慢で無いが、10人中9人は女性だと思うはずだ。それにもかかわらず




コンッコンッ




とまたノックされる。これはもう、僕が男なのに女装してトイレに盗撮目的で入ったと思われてるとしか思えない




しばらく迷った結果、諦めて出ることにした。これで僕の人生も終わりか……と




しかし、トイレの中には誰も居なかった。しばらく迷ったとはいえ、出て行った様子はなかったのに




今のうちに出ようと思い、出入り口の取っ手を掴んだ時




「おいあろむお」




後ろから野太い男性の声がした

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