第116話 ストリートミュージシャン

夢はミュージシャンだった




過去形にするにはまだ早いが、そろそろどうするか、見切りをつける時期に来ている




もう20代も半ばになり、スカウトすら来ないだろう




「はあ、今日も誰も来ないか」




ハチ公前で歌を歌うが、誰も足を止めない。数日前に、俺の歌を気に入ったというよりは、寄付する感じで500円玉を缶に入れてくれる人が居たくらいだ




「バイトも辛いし、そろそろ考えないとな……」




そう思ってギターをしまっていると、女性が足を止めた




「もう終わりですか?」




「ああ、もう夜も遅いし、人も少なくなってきたからな。聞きたかったのか?」




「こんなところで歌う人は珍しいので」




なんだ、物珍しさだけか。それでも、興味を持ってもらえただけましだろう




「明日また歌うから、もう少し早い時間においで」




俺はそう言うと、ギターを担いで家に帰った




次の日、バイトを終えて、ギターを背負い、ハチ公前に行く




すると、昨日の女性が待っていた




「わざわざ待っていたのか?」




「昨日約束しましたので」




「準備をするから待っててくれ」




俺がギターの準備を終え、歌を歌う




「いい歌ですね」




「そう思うなら、この缶に気持ちでも入れてくれ」




俺は照れもあってぶっきらぼうにいった




すると、女性は1万円を缶に入れた




「いいのか?」




俺は100円でも入ればいいやと思っていただけに、金額に驚いた




「私には必要ありませんので。また明日、聞きに来ていいですか?」




「ああ、好きなだけ聞いてくれ」




次の日も、女性は待っていた




歌を歌い終わると、また1万円を缶に入れる




「もしかして、無理をしてないか? 気持ちだけでいいんだぞ?」




「これが私の気持ちです」




俺は女性のために、歌詞を考えた。今までで一番真剣に歌を作った気がする




次の日、また女性が待っていてくれたので、さっそく披露する




「これ、私の歌ですか?」




「ああ、気に入ってくれたか?」




「はい。これで、あっちにいけそうです」




そう言うと、女性は消えた




俺が作った歌の曲名は、GO to heavenだ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る