懐かしいデジャヴ

コンコン


「失礼します」


「おー、来たか。じゃあ、先にαに話を聞きに行け。柚月と俺でが大方聞いたが、確認のためにもう一度話してこい。早弁くんたちはαがいる隣の部屋に待機させてある」


「了解しました」


「あぁ、そうだ、蒼? 柚月がごりっ......」


「分かっています。後でちゃんと話しますから」


「......おぉ。それから、念のため姫を同席させる。記録係としてもそうだが、女子がいた方がαも話しやすいだろう」


「分かった。じゃあ、話してくる。蒼、行くぞ」


「............あぁ」


「おい、蒼。ちょっと待て」


「俺、先に行ってんぞ」


「あぁ、すぐ行く」



「......湊は思い出したみたいだな。もう一度言うが、俺はお前を買っている。だから、セミメディをやめ......」


「俺はセミメディを辞めません!! ちゃんと自分と、湊と向き合います」


「そうか......それならいい。励めよ」


「はい、では後ほど」


バタン


「蒼は大丈夫か。あとは、湊だな......」




コンコン


「入るぞ......。雅、よろしくな。蒼も後から来る」


「わかりました」


「あっ、あの! すんませんでした。俺が床にワックス塗ったせいで湊さんを転ばせてしまって。」


「あぁ”?」


 こいつ、全然分かってねぇーのな。誰に謝ってんだか。俺が怪我をするのは別に大したことじゃねぇ。だが......


「お前はそもそも謝る相手を間違ってんだよ! 何のために嘘ついてワックス借りてバスケコートに塗ってんだよ! そこでダンスの練習でもするつもりだったんか?」





 んだよ、だんまりか。俺、こういうヤツ嫌いだ。自分のやったことに責任持てなくて、やっちまった後にどうしようって......。それじゃあ、おせぇーんだよ!


「まぁまぁ、みなちゃん。そんな顔してたら、せっかくのイケメンが台無しよ? それにまともに話も進まないわ~。ねぇ? αちゃん?」


「......蒼さん。蒼さんの方が怖いです」


「あらそうだったかしら?ごめんなさいね~。で? 何のためにワックス塗ったのか聞かせてもらおうか?」


 おい、蒼。本性丸出しだぞ......。しかも、雅の言う通り俺より怖いぞ、お前。



「......めッス」


「あ? 聞こえねぇよ」


「......っだから! あいつらにも俺と同じ気持ちを味わわせるためだよ! あいつら、俺がチビだからってバスケするたびにいじってくるんだよ。俺がスリーポイントシュート打とうとすると、『ファイトォー』って言ってくるからついカッとなって入らなくなるんだよ! 本当は入るのに......。なのにあいつら、自分たちはスリーポイント、バンバン入れやがってっ!」


「それで? ワックスを塗って転ばせて、スリーポイントシュート入らなくさせてやろうと思ったわけか」


「......っあぁ、そうだよ! 背だけ高いからっていい気になりやがって!!」


 なるほどな。なんだ? このデジャヴは.....。どっかで同じようなセリフを聞いたことがあるような、ないような。


「......で、君はなんで早弁くんたちのことをわざわざ報告したんだい?」


「......っ、それは。早弁がバレて先生に怒られればいいと思って」


「ふーん、だから俺たちに報告したってことか」


「なのに、早弁についてはお咎めもないし、俺が報告した早弁してるヤツがパシられてるんじゃないかって心配してるし......」


「それで俺らが動かないから、自分が仕返ししてやろうと考えたわけだ。ずいぶんとやり方が汚いんじゃないの? 今回は湊が先にコートに入って滑ったから早弁くんたちは何事もなく済んだけど、もしそれが湊じゃなかったらどうなってたと思う?」


「......っつ、それは.....」


「こんな怪我だけじゃ済まないよなぁ? もっと大事なもん失ってたかもな」


「君はまだ1年生だ、これから友だちも増えてくる。そんな時に友だちに怪我をさせたらどうなるか、湊が言ってること分かるよね? 確かに、体のことについていじられて嫌だった君の気持ちも分かる。でも、やり方が違うんじゃないか? 本気で彼らに怒ったことはあるのか?」


「......ないッス。中等部に入って初めて仲良くなった友だちだったから言えなかったッス」


「......そうか。一つ今後のために君に教えておくよ。君がチビだと言われても嫌と言えず、言ったとしてもそれをちゃんと早弁くんたちが受け止めてくれないのなら、君にとって早弁くんたちは本当の友だちではないよ」


「......はい」


「君がワックスを床に塗っていたことは亮介が早弁くんたちに話してる。もし話せる状態なら、隣の部屋に行って話してくるといい。どうする?」


「......もう少し時間が欲しいッス。」


「......そう。それから、君はセミメディ見習いだ。本来は、こんなことを起こしてはいけない存在なんだよ」


「君がこれからセミメディ見習いとして続けていけるかどうかは、ボスが決めることだ。俺たちの口からどうこう言える問題じゃない。早弁くんたちとの話し合いが終わったら、必ずボスのところに行くように」


「......了解ッス」


 メディエーターにとって、問題の核心的な部分に当事者として関わるなんて決してあってはならない。どんなに自分を苦しめることをされてもだ。ましてや、加害者としてなんて言語道断。αはきっとセミメディ見習いを降ろされるだろう。それにしても、蒼、いつにもまして饒舌だな。


「じゃあ俺たちはボスのところへ戻るから、雅、あとは頼んだ。αが落ち着いたらよろしく」


「了解しました!」


「......頼んだぞ」


「は~い」




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