第159話 2日目?-6

ヤ「それじゃあ、先に行きますね! アヌビスちゃんは責任をもって私を転移してください!」


ア「うぷっ、て、転移。」




アヌビスはお腹を抱えながら弥生を転移する。みんな一緒に腹いっぱいだったはずなのに、弥生だけどんな体質なのか、いち早く消化したようだ。俺、アヌビス、イルナ、メィルはお腹がいっぱい過ぎてダウンしている。神であっても、食わなくても死なないくせに食って腹いっぱいだと動けなくなるとか、食事に対するデメリットの方が大きくないか? そうアヌビスに問うと「嗜好の問題じゃ。腹が減ったと思えば腹がへるのじゃ。」と返事があった。




レ「だったら、今すぐに腹が減ったと思えよ……。」


ア「ぶ、物理的にお腹がいっぱいなのに腹が減ったと思えるわけがないのじゃ……。」




と、お互い元気の無い声でやりとりする。メィルはこの状態で満足なのか、昼寝に入っている。当然、神に睡眠も必須では無いが、やはり気分的なものなのだろう。それにつられて俺達もうつらうつらと昼寝に入る。




ヤ「なんで誰も迎えに来てくれないんですか!」




弥生の怒った声で目が覚めると、仁王像の様な顔をして仁王立ちしている弥生がいた。昼寝のつもりが、消化のためにかずいぶんと時間が経っていたらしい。もうすぐ夕食の時間だろうが、今は食欲が全くない。




レ「ト、トイレ……。」




弥生の小言から逃げるようにトイレに向かう。実際、消化が終わった食事が体から出たがっている。しかし、トイレは鍵がかかっていた。




レ「おーい、誰か入っているのか?」


イ「……うーん、もう食べられない。むにゃ。」




分かりやすいくらいお決まりのパターンでイルナがトイレで寝入っているようだ。




レ「起きろ、イルナ! トイレに入りたいんだ!」


イ「……あと五分だけ……むにゃ。」


レ「五分も持たん! それに、そう言って本当に五分で起きたやつを俺は知らない!」




しかし、イルナから返事が無いので本格的に寝入ったようだ。やばい、もれる! そうだ、隣の部屋でトイレを借りれば……。後で気が付いたが、その時の俺はトイレの事しか考えられず、隣の部屋に鍵かかかっている可能性を考えていなかった。さらに悪い事に、そのドアの鍵は開いていたのだった。




レ「ト、トイレをお借りします!」




返事も聞かずに部屋に飛び込むと、そこには純白の下着すがたのワルキューレが居た。丁度風呂から上がったらしく、少し肌が赤く、髪は濡れている。そして、それを目にしても俺は何も思わずにトイレに飛び込む。




ワ「き、貴様は!」




遅れて硬直の解けたワルキューレから声が掛けられるが、今はそれどころではない。何とか洋式のトイレに座る。ぎりぎり間に合った……。そう思った瞬間、トイレのドアから槍が生え、俺の首筋をぎりぎり避けて背後の壁に刺さる。そして、ベキリとドアが割られ、顔を真っ赤にし、一応着替え終わったワルキューレの姿が……。




ワ「いい度胸だな。勝手に私の肌を見た挙句、了承も得ずにトイレに入るなどと。」


レ「き、緊急事態だったんだ!」




俺はまだ動けないし、動けたとしても動いたら殺される雰囲気だ。背後の壁もミシリと音を立てる。そんな中でも俺の体は生理現象を続ける。




ワ「うっ、臭い! もうこの部屋は引き払う、好きにしろ!」




ワルキューレの怒りは臭いに負けて逃げ出す。槍を引き抜いたせいか、背後の壁が崩れ落ちる。壁の崩れた音で異常事態だと判断したケルベロちゃんの分身が部屋に飛び込んできた。そして、丁度立ち上がった俺と目が合う。




ケ「何があった! 何だこの異常な臭いは! あっ……。」


レ「あっ……、きゃー!」




女性の様な悲鳴を上げて俺は便器に座りなおす。ケルベロちゃんはフイッと顔を反らし、一言。




ケ「その、なんだ。あたちは何も見ていないから大丈夫だ。」




それ、ばっちり見たやつのセリフなんだけど! その後、ワルキューレが壊したトイレは、ケルベロちゃんに連れてこられたワルキューレが直した。「私は悪くない!」と言っていたが、鼻のいいケルベロちゃんにはこのトイレの臭いが我慢できないらしく、ワルキューレが鼻をつまみながら復元した。ついでに、便器も俺の使用前の状態に復元したようだ。




ヤ「何があったんですか?」


レ「……なんでもない。」




しょんぼりと帰ってきた俺に、怒りの消えた弥生が心配の声をかけてくるが、それに対する答を俺は持っていない。ありのままを話すなんて、恥の上塗りだからな。その後、こっそりとお詫びの品としてケルベロちゃんから帰還の巻物が届いた。……ダンジョンのトイレを使えって事か? と邪推する。それ以降、俺は自分がトイレを使用するたびに綺麗に掃除をしようと心に誓った。




ヤ「それよりも、私のステータスがまた一気にあがりました! アラクネを倒しまくりです!」




弥生は話題を変え、今日の狩りの結果を伝えてきた。




形無弥生:HP6092、MP11530、攻撃力4500+1350、防御力1500、素早さ3400+3060、魔力1500、スキル:変化、投擲術(10)、空間魔法(8)、HP自動回復(中)、MP自動回復(大)、攻撃補正(中)、透明化、装備:スラクナイ・攻撃力250、スラ手裏剣・攻撃力250、スラマフラー・防御力250、忍者服・防御力5




あれー? なんか、総合ステータスが僕のステータスの倍近くになってませんかねー?




レ「……俺も、がんばらないとな。明日から本気出す。」


ヤ「それ、頑張らない人のセリフですよ……。」




これでも、MPが余ってるときは分裂体を作っているんだ。ただ、かさばるから俺も空間魔法欲しいな……。とケルベロちゃんに愚痴ったところ、空間魔法のスキル書を特別にくれた。ダンジョンで未獲得だったやつらしい。そういえば、こっちのダンジョンではまだ取ってなかったな……。ついでに、自分の装備だけこっそりと一新する。おっ、ステータス未割り振り分があるわ。ついでに振ってしまおう。




源零:HP9113、MP7510、攻撃力1000、防御力2500、素早さ1500、魔力1600、スキル:分裂、MP自動回復(中)、融合、空間魔法(4)、装備:スラタン(刀)・攻撃力500、スラコート・防御力400




ステータスを割り振ると、MP自動回復が小から中に、空間魔法が速攻で1から4に上がった。これで分裂体を作る作業と、余った分裂体をしまう作業が楽になった。分裂体と融合するのは、経験になるけれど、融合するたびに満腹感の様なものに襲われて、ずっと融合している訳には行かないのだ。なんだかんだと余っていた分裂体が部屋に置いてあるので、それを片付けることにした。




片付け終わる頃には、あれだけお腹いっぱいだと言っていた腹が、現金なもので腹が空いたとグーグー鳴いて主張してくる。


大部屋で仲良くトランプをしていた弥生たちが、俺に気が付いたようで、トランプを片付け始める。丁度区切りがよかったみたいだ。




レ「運動したおかげか、俺は腹が空いているけどみんなはどうだ?」


ヤ「私は普通にいつでも食べられますよ。」


ア「ホットケーキは別腹なのじゃ!」


イ「……マグロ以外なら食べたい。」


メ「私も、お子様ランチをもう一度食べようかの。」




メィルはお子様ランチを気に入ったようだ。飽きるという事が無いのだろうか、アヌビスにしろ同じ物ばっかりよく食うな……。いつまでもマグロをアイテムボックスへ入れていても仕方が無いので、焼いたり煮たりと料理を変えて俺と弥生で食べる。イルナは「……牛」とか言っていたが、こんどは牛が丸ごと1頭来ても困るので、普通にステーキにした。




食事も終わり、順番に風呂に入る事にする。メィルは入らなくてもいいと言っていたが、弥生がせっかくだからと強制的に入れることにした。ここの風呂は大きいので、俺以外が全員入り、その後で俺が入る感じだ。




ア「なんじゃ? 零も一緒に入るか?」




風呂場へぞろぞろと歩いて行く弥生たちを見ていたのを目ざとく見つけたアヌビスが聞いてくる。




ヤ「ダメに決まっているでしょ! 早く来なさい!」




当然、弥生が許可するわけはなく、ずるずると引っ張られて行く。お風呂でキャッキャウフフな会話が聞こえた様な気がしたが、俺は無心で分裂体を作る。すると、アヌビスが俺を呼びに来た。




ア「零、入ってよいぞ。」


レ「ああ、わざわざサンキュ。」




俺は脱衣所に向かい、ピタリと動きを止める。俺を呼びに来たのはアヌビスだけ、そして他のメンバーの姿は見えない。これはアヌビスの罠か? よし、声をかけよう。




レ「俺だ。もう入っていいのか?」


ヤ「ダ、ダメですよ! まだ私たちが入っているんですから!」




やはり、弥生たちはまだ上がっていなかった。危ない、あのまま素直に突入していたら血の雨が降る所だった。




メ「ふう。風呂もいいものだの。」




メィルが壁を透過して歩いてくる。透過したのですでに水気は無く、服もいつものワンピース姿だ。ただ、肌は薄いピンク色になっていて、いつもより色気が……。




メ「どうしたのだ? 何か私に変化があったのかの?」


レ「い、いやなんでもない。」




俺は早口で否定したが、メィルは4枚の羽をパタパタしたり、後ろの方をがんばって向いたりして確認していたが、何も無いと判断し、飲み物を取りに歩いて行った。次に、ドアを開けてイルナと弥生がパジャマで出てくる。イルナは新調したのか、着ぐるみっぽいパジャマだ。フードをかぶると死神に見えるという誰得のデザインだ。弥生は浴衣で、こちらも湯上りのため肌がピンク色で、メィルと違って透過は無いので水気を含んだ髪の毛が肌につき、色っぽい。




イ「……入らないの?」


レ「お、おう。入るぞ。」




ぼーっとしていた俺にイルナが突っ込みを入れたので我に返る。




ヤ「ふぅ、皆を入れるのは大変でしたけど、楽しかったですよ。みんなで水着を着れば一緒に入ってもいいかもしれませんね。」




いや、そこを後悔してぼーっとしてたわけじゃないぞ! 心の中で突っ込みを入れて風呂へ入る。風呂から上がり、歯磨きをして、アヌビスがキチンと闇の壁を張ったのを確認してから寝た。

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