第158話 2日目?-5

購買で麻痺を直すアイテムを買い、麻痺を直してもらった。俺はやっとのことで起き上がり、椅子に座る。フロントに居たリリスは、待っているといいつつラヴィ様が来た時点で逃がされたらしい。逃げていなかったらダンジョンが倒壊した場合巻き込まれていただろう。




ラ「リリスから緊急の連絡を受けて来てみれば、これは一体どういう事かしら? それにメィル? あなた、少し見ない間にずいぶんと成長したじゃない? それに、鑑定妨害も覚えたのかしら?」




ラヴィ様はメィルの姿を見て「勝手に何しやがった」と怒っているのだろうか。想像通り、勝手に悪魔のコアを壊したんですけどね。




ラ「やっぱり勝手にコアを破壊したのね。あなたの場合、女神ですらないのだから降格なんかでは済まないわよ?」




俺の心を読んだラヴィ様が現状を把握する。別にチクったわけじゃないぞ、聞かれたことに対して心の中で思うのは普通の事だと思う。




メ「そう言われてもの。結果論ではあるが、おかげでこの程度の被害で済んだとも言えるぞ?」


ラ「報告にあったランクⅡ相当の悪魔の事ね。それはどうなったの?」


メ「ランクⅡはカリヴィアンで、カリヴィアン自体はグレシルが倒して、コアを回収していったぞ。」


ラ「そう……それは嘘じゃないようね。でも、どうしてそうなったかの説明が無いのだけれど?」




ラヴィ様は、今度は俺の方を向く。俺が説明しなきゃならないのか?




レ「ブラッドサキュバスがカリヴィアンになる事を思い出して、丁度フロントにいたリリスに、ラヴィ様への救援を頼んだんだ。運悪く、連絡が付かなかったからメィルを連れて確認に向かったんだが……。」


ラ「何故そんな危険な場所へ向かうの! 相手はランクⅡの悪魔なんでしょ? 死にに行く様なものよ?」


レ「それは……。」


メ「私が話そう。私なら、仮にランクⅡの悪魔であっても何とかなると思ったからの。」


ラ「そこが一番不可解よ。昨日まで見習い女神だったあなたが何故急にそんなに自信を持ったのかしら? いいえ、自信だけじゃなくて実際に実力があり戦った。そうよね?」




ラヴィ様はリリスから連絡を貰った時間と、現場に着く間の時間差で生き残っているのが信じられないのだろう。仮にメィルが勝手にコアを壊してランクⅤになっていたとしても、瞬殺されているだろうから。




メ「今の私は、ランクⅢはあるからの。」


ラ「あなた、勝手にっ……! いい? 急激な経験値の取得に対する負荷に体が耐えきれない場合、死ぬ可能性もあるのよ? そのランクに上がったのだとしたら、壊したのはランクⅢ相当のコアか、複数のⅤ、Ⅳランクのコアを壊したわね。本当に、何をしているのかしら!?」




ラヴィ様は苛立ちを隠せずに床をドンと踏む。俺はビクリとし、床はビキリとひび割れる。床が陥没していないところを見ると、これでも壊さないように配慮したのかもしれない。そして、さりげなく壊したことがバレないように復元で修復しているな。




ラ「うるさいわね。」


レ「何も言っていません!」


ラ「思うのも同じよ。」




俺は無心になって何も考えないようにする。そうしたことで、質問先がまたメィルに戻る。




メ「コアに関しては大丈夫だという確信があったからの。まだ全然足りぬくらいだの。」


ラ「あなた、懲りてないようね。それに、ランクⅢ? ランクⅢでランクⅡの悪魔の様子を見に行ったというのかしら? 本当に、死にたいのね?」




怒りつつも心配をしているラヴィ様は優しいのだろう。だが、当のメィルはどこ吹く風という感じで堪えていない。




メ「ふーむ、信じておらぬな。それならば、こっちへ来てステータスを確認するがよい。」




メィルはラヴィを連れてダンジョンの入口の方へ向かった。俺もメィルのステータスは気になるが、ラヴィ様の殺気にこれ以上近づきたくないのでこのまま待機している事にする。しばらくして、あれほど怒っていたラヴィ様が、落ち着いた様子で戻ってきた。




レ「ど、どうでした?」




その様子に興味が引かれ、腫れ物に触るような感じではあるが尋ねずにはいられなかった。そして、怒鳴られることはなく、冷静な返事が来た。




ラ「実際ステータスを見ても信じられないわ。ランクの表示は故障なのか、正式なランクアップじゃないからか分からいけれど、表示されなかったわ。でも、表示されたステータスはランクⅢどころか、ランクⅡ……いいえ、ランクⅠと言われてもおかしくはない数字だったわ。でも、やはり故障かしらね? それとも見間違い? 私も疲れている様ね。先に失礼するわ。」




ラヴィ様はそう言うと、返事も聞かずにフラフラとどこかへ歩いて行った。転移する気力も無いのだろうか。




メ「まあ、よいではないか。そうだ、今日は一緒にビジネスホテルに泊まるかの?」


レ「それは弥生たちにも聞いてみないと。と言っても、以前のメィルなら有無を言わさず自由に泊っていった様な気がするが。」


メ「ふーむ。あいにく記憶は無いが、そんなに恥知らずな行動を私はしていたのか。」




メィルは微妙にショックを受けた様な感じではある。




ア「お腹が空いたのじゃー。ん? 零とメィルではないか。どうしたのじゃ?」




丁度ゲームが終わったのか、アヌビスとイルナが歩いてくる。ゲーム中は本人にダメージが無い限り起きることはなく、外部の事が全く分からないのが難点だ。




レ「ああ、カリヴィアンの事を思い出して、メィルと一緒に向かっていたんだ。それは何とかなったんだが、そのあとにグレシルとか……、それもラヴィ様が来てくれたおかげでなんとかなったんだが。


ア「ふむ、よくわからぬが何とかなったのなら良いではないか。飯を食べるのじゃ! ビジネスホテルに向かうのじゃ。」




複雑な事は全く気にならないアヌビスは、あっさりと会話を切り上げて飯の話にする。イルナにしても相変わらず何を考えているか分からない顔をしているが、質問をしてこないという事はどうでもいい事だと思っているのだろう。




レ「それなら、弥生も連れてきたらどうだ? まだ8階に居るだろうし。」


ア「分かったのじゃ。転移!」




アヌビスは弥生の所へ転移する。そして、すぐに戻ってきた。




ヤ「まだ戦闘中だったのに! もうっ!」


ア「ご飯を食べてからまた戦えばいいのじゃ。我はもう腹ペコで我慢ができないのじゃ。」




子供の様に駄々をこねるアヌビスに、弥生の方が大人の対応をする。弥生自身も戦闘の緊張感が切れ、空腹に気が付いたのか、これ以上文句を言わなかった。食堂にははじまる様が居ないため、ケルベロちゃんにご飯を取り寄せてもらいにホテルへ戻る。




ア「ホットケーキなのじゃー!」


イ「……マグロ。」




アヌビスは相変わらずホットケーキを。イルナは何を思ったのか、マグロ……の刺身だよな? を希望した。弥生は珍しくポークカレーを。俺は何となく銀鮭の焼き魚定食にした。




メ「零の星の食べものを食べてみたいの。何かおすすめはあるか?」




俺は少し考えた末、ギャグに走ることにした。




レ「そうだな……、お子様ランチなんてどうだ? 日本人なら誰でも必ず一度は食ったことがある有名な料理だ。場所によっては、豪華なおまけがつくことも多い。」




俺は大げさにお子様ランチを紹介すると、メィルは「ほぉ」と目を輝かせる。その後ろで、弥生は笑いを堪えているが。




メ「それならば、その『お子様ランチ』とやらにするかの。楽しみだの。」




フロントに電話すると、ケルベロちゃんが出たので料理を注文する。ワルキューレは居ないのかな? まあ、居たとしても絶対に俺達の所へは来ないだろうが。




ケ「よぉ、持ってきたぜ。」




持ってきたのはケルベロちゃんの分身のようだ。こちらの世界でも分身の方は語尾に「ワン」が付かないみたいだ。まあ、その辺はどっちでもいい事だが。料理を順番に出し、そして、驚いたことにイルナの目の前にはマグロがまるまる一匹デンッと置いてある。活け造りと言えばいいのか? 100kg近いマグロを一人で食えるのか?




メ「ほぅ、これがお子様ランチか。これは、零の国の旗か? この赤色の穀物と、黄色い物は見たことが無いの。」


レ「それは日本国旗だな。赤色のはケチャップで味付けしてあるケチャップライスというんだ。大人……ごほんっ、それだけで食べるならオムライスと言って卵で包まれている場合もある。黄色いのはプリンといって甘いぞ、デザートとして最後に食べるといい。」


メ「飲み物まで一緒についてくるとは、これだけで全部揃うとは豪勢じゃの。ん、この味はリンゴかの。」




メィルは意外に気に入ったようで、ウィンナーやスパゲッティ、ハンバーグなど順番に口に入れては「うまいの」と言っている。あとで「それは子供用だけどな」と言いづらくなった。そして、イルナは案の定、マグロを喰いきれていない。イルナにしては珍しく、表情が分かるくらいげんなりしていた。




レ「……なあ、少し貰っていいか?」


イ「……いいよ。」




イルナもまるまる一匹来るのは予想外だったようだ。結果的にみんなで腹のあいている限りマグロを食べ、食べきれず、もう残すしかないかと思ったところで、時間の止まったアイテムボックスへ放り込めばいい事に気が付いた。腹がいっぱい過ぎて午後の狩りが遅くなったのはご愛敬だろう……。

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