第99話 ヴェリーヌ

ラヴィがとぼとぼと後ろをついてくるのが気になるが、あえて気にしないようにする。次に出てきたのはグリフォンだった。これは俺が使っているのと変わらない姿をしている。つまり、飛行するという事だ。だが、このダンジョンの天井は低い上に横も狭いので飛行が有利になっていないと思う。実際、旋回できずに壁に一回足を付けたり、地面に降りたりしている。





レ「よし、ユウ、投網だ。そっちを持ってくれ。」


ユ「分かりました。」





俺は分裂でクモの巣のように網を作ると、ユウと手分けして通路をふさぐ。グリフォンはその網に向かって風魔法を使ってくるが、それは予想の範囲内だったため、魔力を上げてある網は破れない。網を破る前提で突っ込んできたグリフォンはあっさり網で捕らえられた。





レ「このグリフォンもラヴィが作ったのか?」


ラ「いえ、ヴェリーヌ先輩が設計した物を上司が作りました。」





ここでヴェリーヌが出てくるのか。まあ、仮に敵に回ると分かっていても俺がどうこうすることは出来ないが。メィルあたりにチクっても信用してもらえるとは思えない。俺も会社の同僚が知らない人から「この人、未来で裏切りますよ。」と言われても「じゃあ、そうならないように気を付けるよ。」と口だけで答えるだろう。


俺がそんなことを考えている間に、ユウはキチンと戦っていたようで、網の隙間から剣をグリフォンに刺して消滅させた。





ラ「ユウ様、お見事です!」





ラヴィが作っていないからだろうか、グリフォンを倒したことを褒めている。いや、もしかしたらヴェリーヌの事が嫌いなのかもしれない。





レ「ちょっと聞いてみるが、ラヴィはヴェリーヌの事を尊敬してるか?」


ラ「ダンジョンに関係の無い質問なので、ノーコメントとさせていただきます。」





ラヴィは誰が見ても分かるような作り笑顔で返事をした。こういう時は尊敬していると言わない限り、尊敬していない事になるんだがな。


そろそろ夜が近くなってきたが、ガーゴイルとキメラとグリフォンにしか会っていない。別に、ブラッドサキュバスが見たいわけじゃないんだからね! でも、聞くぐらいはいいよな?





レ「なあ、ラヴィ。この階って3種類しかいないの?」


ラ「今はまだ3種類ですね。作るのは大変なので、増やすとしてもどこかから連れてくるしかありませんが。そうですねぇ、コンセプトを決めてから何にするか考えます。」





コンセプトが飛行に決まってからダンジョン通路の拡張とブラッドサキュバスの配置がされるんだな。じゃあ、もうこの階には用は無いな。





レ「じゃあ、そろそろ帰ろうか。ユウ、晩飯は何にする?」


ユ「大豆でもあれば、少しは栄養のある物が作れそうですが。」


ラ「あっ、豆でしたらありますよ! ポップビーンズと言って破裂する豆が。」


レ「・・・ポップコーンか? ちょっと気になるが料理には使えなさそうなので却下だ。」


ラ「じゃあ、このビックシードですかね。」





ラヴィがそう言って見せてくれたのは、ほぼほぼ大豆に似た豆だった。ちょくちょく英語なのが気になるが、神の自動翻訳あたりがそうなっているのだと思う。





レ「じゃあ、ユウに任せた。」


ユ「分かりました。時間短縮の為に加圧してもらえると助かりますが。」


ラ「じゃあ、私が空間魔法でお手伝いしますね!」





いつの間にか料理を通してユウとラヴィが仲良くなっている気がする。


ラヴィの転移によって食堂へ移動する。寝るところには料理できる場所が無いから、晩飯を食うなら食堂が一番いい。俺は料理しないから適当に分裂体で遊んでいると、料理を終えたユウが戻ってきた。


ユ「ハンバーグにスープ、煮豆にポップコーンです。」


結局ポップコーンも作ったのか。俺は最初にポップコーンに塩を振って食べてみると、思ったよりうまい。





レ「本当にポップコーンに近いな。」


ユ「さあ、他の物も冷めないうちに食べてください。」


皆「いただきます。」





野菜の出汁や何かの肉を細切れにしたものを混ぜてあって、ほどほどに味のついた料理を食べる。俺には物足りないが、いつものようにラヴィには絶賛だった。俺も数日間、素材の味の料理だけを食べていればラヴィと同じような反応になるかもしれない。





ヴェ「あら、いい匂いがすると思ったら。元気かしら? ラヴィ。」


レ「ヴェ、ヴェリーヌ先輩! お久しぶりです!」





本当にヴェリーヌだ。ただ、未来と違うのは赤い髪の間には角が無く、背中は蝙蝠の羽の代わりに美しい白い翼があるという事だろうか。





ヴェ「えっと、そちらは?」





ヴェリーヌは俺とユウの方に目を向ける。その瞬間、雰囲気が変わったような気がした。





ラ「このダンジョンのテスターの冒険者で、源さんとユウ様です!」


ヴェ「冒険者・・・人間よね?」





ヴェリーヌは少し目つきが鋭くなったきがする。もしかして、鑑定した?





レ「初めまして。俺は人間ですが、こっちは分裂体と言ってホムンクルスみたいなものです。」





ホムンクルスがこの時代にあるかどうかは知らないが、うまく説明する物が無いな。ああ、普通にスライムの分裂って言えばよかったかな。





ヴェ「そう。」





ヴェリーヌはそれだけ言うと、もう興味はないのか去っていった。去って行ってから1分ほど経ってからラヴィが口を開く。





ラ「ふぅ、緊張しました。ヴェリーヌ先輩はものすごく短気なので、どんな発言が地雷になるか分かりません。この間なんて、原住民が無礼を働いたとか言って星を一つ破壊しましたし。」


レ「それはスケールがでかいな・・・。」


ラ「能力はあるので。ああ見えても複数の惑星を管轄する事が出来る上位女神なのです。」





ラヴィ様と同ランクと聞いていたから驚きはしないが、なんで女神が悪魔になったんだろうな?


ラヴィのヴェリーヌの理不尽話を聞き流しながら寝る場所へ向かう。


ユウは寝る必要が無いので、適当に夜番をさせておくことにした。俺は指で歯を磨き、塩水でうがいをする。風呂もそうだけど、汗をかいてスーツがなんかべとべとする気がするな・・。俺は明日ラヴィになんとかならないか聞くことにして、藁の布団に寝た。


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