火の魔王は前世からの推しなんです!
私はアネット。
もうすぐ寿命が尽きる。ただの魔法使いです。
火の魔王と五度戦い、そのたびに生かされました。
私は強い。そう思う上がり、挑戦するたびに火の魔王は私を受け入れ、対決したくれたのです。
あの人に逢いたい。理由をつけては戦いに赴きました。
最初に戦ったのは三十歳前ぐらいかしら?
三戦目からは、魔王城の広間へ、直接飛べるようにまでしてくれました。
でも次の再戦は叶いそうにないですね。約束破りは私です。
それだけが心残り。
私を見守るのは、こんな偏屈ばあさんについてきた、可愛いエルフの女の子。
彼女に火の魔王との話をしています。
これで何度目かしら。ごめんなさいね。
あなた風にいうと、もう私の人生を賭けて良いほどの推しなのよ、魔王は。
「それが、私と火の魔王の話なのよ。何故、かの魔王が私を逃したかわからない。いつか聞きたいものね。でも、先に私の寿命が尽きてしまった」
「師匠! 何故延命魔法を使わないのです!」
「使えないのよ。あれは神に属する力。そうね。生まれ変わったら神官か賢者でもいいかしらね」
それにこんなおばあちゃんになった私を見せたくないもの。
次は若いうちから魔王に会えたらな、と。
これは後悔かしらね?
「師匠! 火の魔王様様の火炎の国は私の故郷です。魔王様に頼んで延命を!」
「だめよ。そんなの。私達の戦いに水を差してしまうわ」
老いたとは言え、矜持はあるのです。
「……そうね。火の魔王とはわかり合えた気もする。でも私には時間が無い。所詮魔法使いよね」
「悔しいです。師匠はもっと、褒め讃えられてもいいはずなのに。討伐じゃないから報償に値しないとか」
「報償欲しさに戦ったわけじゃないからいいのよ。私は自分の限界を知りたかった。火の魔王は受け止めてくれた。それだけ。約束はついでにすぎない」
「火の魔王は約束を守ると思いますか?」
「侵攻の件はね。先に約定を破るのは人間でしょうね」
「やはりそうですか。私は火の魔王のほうが信頼できます」
「あなたの国の王様ですものね。わかるわ。私も同感」
「師匠、苦しそうで……幸せそう」
「そうね。全力を受け止めてくれる男っていいものよ」
逢いたい。
「私は転生呪を使う。神の奇跡に頼れない以上、できるのはせいぜい知識をもって転生することぐらい」
「必ずお探しします、師匠」
「いいのよ。あなたは好きに生きなさい。私は生まれ変わったらどうしようかしらね。また火の魔王にでも会いに行くとしますかね」
「師匠…… 師匠?!」
さて。最後の仕上げは、と。
私が生まれ変わったら、神様の加護を受けることはできないだろう。
だから、たった一つだけ、魔法使いのみ許される秘策を使い、次は神官か賢者になると決めたのです。
◆ ◆ ◆
これが私。青の賢者シアンの前世。
火の魔王とは数百年ぶりの再会になります。
そして私は今、水着、いわゆるビキニを着て魔王と対峙しています。
夏のイベントからずっとこのスタイルです。
「我が名は青の賢者シアン。火の魔王。あなたに全力で挑みます」
水着の理由? この姿が一番強くなれるのです!
水着でラスボス戦と相成りました。
周りの仲間は死んでいます。目が死んでいるとかではなく、心が折れたとかでもありません。物理的に死んでるのです。
魔王が対話しようとしたところ、問答無用で切りかかった勇者エーキルが瞬殺され、援護に入った四人も瞬く間にやられてしまったという状況です。
魔王は対話できる男と何度も話したのに。盗賊のロイがフェイクデスというスキルに失敗しリアルデスになったのはご愛敬。あなたやる気ないからね。
私の目の前にいるのは――椅子に座った魔王。彼は火の魔王。五人いる魔王のうちの一人。
倒れた勇者たちをみて悠然と微笑んでいます。つまり、彼らは火の魔王を立たすことさえ無理だったのです。
攻撃魔法も仲間がいたら巻き添えになるため出来なかったので、支援魔法ぐらいしか使っていませんでした。
攻撃魔法を使うと魔法使いが、回復魔法を使うと神官が嫉妬するのでここらへんの気遣いも忘れません。賢者だからね!
支援魔法を行い傍観していたら、私を除いて即死しました。重装備を着て一撃死されると、回復も間に合いませんよ……
私と相対する、火の魔王。
角が生えていますがイケメンです。この男は男女問わずに問わずモてます。性格的にもイケメンなのはしっています。
今風に言えば私の推しです!
火の魔王は前世からの推しなんです! 語らせたら数時間止まりません!
魔王と四天王は火炎の国のみならず、人間のネムス王国にもファンが多いのです。一番人気は、魔装鍛冶師であるウーヴェだと思います。
勇者が歯軋りしてたことを思い出しました。私はあんなお子様興味ありませんが。
話がそれました。
眼前にいるのは火の魔王。もう一度逢いたかった強敵です。
「我が名は青の賢者シアン。火の魔王。あなたに全力で挑みます」
私から名乗りをあげます。私が、挑戦者です。目の前に推しがいるんですよ! 推しが!
火の魔王は悠然と笑いながら、私に告げます。
「あえて嬉しいぞ。青の賢者シアン。――どちらが上か、決めようじゃないか!」
立ち上がりました。――勇者たちより、私一人と強敵と見据えて。
「ええ。火の魔王。いざ、尋常に――勝負!」
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