愛情!独力!貪利!愛憎渦巻くトレジャーハント④
「はい、これで受付完了です。頑張ってくださいね」
火燐と環さんに連れられて、俺たちはトレジャーハントの受付会場に来た。
「あら? 赤井くんじゃない。久しぶりね」
そこには乙音先輩のパートナーである一花さんがいた。
「お久しぶりです、一花さん。いつぞやはお世話になりました」
一花さんに向かって軽く会釈をする。
「やだなぁ、私は何もしてないわよ。ほとんど乙音さんのおかげよ」
一花さんはケラケラ笑いながら否定する。
「いやいや。ショップのみなさんには頭が上がりませんよ」
今こうして俺の命があるのはショップおかげだと言っても過言では無い。
「は?」
「……は……?」
一花さんと親しげに話していると、両隣りから燃えるような殺意と身体の底から冷えるような冷たい殺意を向けられる。
「はっはっはっ。こらこらお前たち。そんなロープや手錠なんて見せつけてくるなって。怖くて泣くぞ?」
強気に笑ってみせるが、内心は恐怖に押しつぶされそうだ。
「えぇ……?」
俺たちの突然の生死をかけたじゃれ合いに少し引き気味な一花さん。
「ま、まぁ愛の形は人それぞれだものね……。うん……」
一花さんは無理やり自分を納得させたようだ。
「いいか、お前たち。この人は今回のイベントの主催者である三井乙音先輩のパートナーだ。粗相のないようにな」
このまま殺意を向けられていてはろくに話も出来ないので、とりあえず二人を落ち着かせる。
「あら、そうだったの」
「……それならそうと早く言ってくれれば……」
それを言う前に動き出したのは君たちの方じゃないか。
「初めまして〜。私、こちらの赤井恋次の妻である赤井火燐です」
「……同じく妻の赤井環です……」
なんだそのツッコミしかない自己紹介。
「ちょっと環ちゃん。恋次の妻は私なんだけど? 私と恋次の仲を邪魔しないでくれる?」
「……それはこっちのセリフです……。火燐さんこそ……私と恋次さんの間に割り込んでこないでください……」
俺への殺意が冷めたと思ったら、今度は二人で小競り合いをし始めた。
「……いや、二人とも自己紹介としてはゼロ点だからね!?」
なぜか今の自己紹介でOKみたいな感じになっているが、偽名を使った自己紹介なんて論外だ。
「何言ってるのよ恋次。どうせいつかはそうなるんだから名乗るなら早い方がいいじゃない」
何を言ってるんだお前はみたいな目でこちらを見てくる。
それはこちらのセリフだが。
「……そう……これは誤差の範囲内……」
数年以上先の未来のことは誤差とは言わない。
「あっ、あはは……。火燐さんと環さんですね。よ、よろしくお願いします」
気まずそうに笑いながら一花さんはなんとか今の自己紹介を受け入れてくれたようだ。
(歳上に気を使わせてしまった……)
申し訳なさで心がいっぱいだ。
「そ、それでトレジャーハントの出場の件ですね。今、手続きします」
一花さんはそう言って書類の作成を始めた。
「そういえばこれってどんなことをするんですか?」
トレジャーハントの概要が書かれた紙を持って一花さんに尋ねてみる。
「そうですね……。基本はやっぱりパートナーとの信頼を確かめるため、パートナーと協力するものが多いですね」
書類を作成しながら俺の質問に答えてくれる。
「へぇ〜、例えばどんなことをやるんですか?」
気になったので深堀して聞いてみる。
「それはやってみてからのお楽しみです」
さすがに教えてくれなかった。
「まぁ何が来ても私と恋次なら余裕ね」
火燐が自信満々に呟く。
「……火燐さんが役に立たなかったらいつでも頼ってください。ね? 恋次さん……」
環さんは俺の手を握って可愛らしく小首を傾げる。
「は? 指輪をもらって信頼がカンストしてる私にいい度胸してるじゃない」
火燐が環さんの言葉に反応する。
「……私たちはそんな物がなくてもお互い信頼しきってますから……」
環さんがそんな火燐を横目に俺の肩にもたれかかってくる。
「は・な・れ・なさいよー!」
そんな環さんを見て、火燐が引き剥がしにくる。
「いたたたたっ。ちょっと落ち着けお前ら」
火燐に抵抗するため俺の腕を掴んでくるものだから俺も引っ張られて痛い。
「いいわっ。そこまで言うならこのトレジャーハントでどっちが恋次と信頼し合ってるか勝負しましょ」
「……望むところ……」
このままでは埒が明かないと思ったのか、なぜか二人で決闘を行うことになった。
「……まぁ怪我がないよう程々にな」
事態を収束させることは無理だと悟った俺は、それだけ言って決闘について忘れることにした。
「──はいっ。書類書き終わったわ。これで受付完了よ」
話し込んでいると一花さんが書類を書き終えてくれたようだ。
「ありがとうございました」
お礼を言って受付会場を後にしようとする。
「赤井くん、頑張ってね。私は運営だし、一つのパートナーたちに肩入れしちゃダメなんだけど、貴方たちのこと応援してるわ」
一花さんに声をかけられて振り返ると、ニコリとした笑顔でエールを送ってくれた。
「はい、ありがとうございます! なんとか優勝できるように頑張ります。……命もかかってますし……」
その一言で察したのか一花さんはなんとも言えない表情になって俺たちを見送ってくれた。
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