愛情!独力!貪利!愛憎渦巻くトレジャーハント①
「ふぁっ……あぁ〜」
あくびをしながら通学路を進む。
「平和だなぁ……」
先日の火燐と環さんの激しい恋戦が終わり、割と平穏な日々が続いていた。
時折、火燐と環さんの小競り合いに巻き込まれたりはするが大抵引き分けに終わる。
「こうも平穏だと逆に刺激が欲しくなってくるな」
ただし命に関わるものはノーサンキューだ。
「おーっす、恋次。何朝からつまんねー顔してんだよっ!」
「いたっ!?」
突然後ろから背中をバチンと叩かれる。
「いってぇ……、誰だ──ってエレナかよ」
背中をさすりながら後ろを振り向くと、そこには乙音先輩のショップで働く同じ学年のエレナが立っていた。
「なんだよ、アタシじゃ不満か? お前の大好きなパートナーちゃんじゃなくてわるぅございましたね」
不貞腐れた顔でエレナは俺の隣を歩き始める。
「別にそんなことは言ってないだろ。それにアイツらとは学校でずっと顔を合わせてるんだしな」
最初の恋戦で同じクラスになった火燐はともかく、何故か学年すら違う環さんもほとんどの時間一緒にいる気がする。
「──あぁ。そういやお前、この前の恋戦でもう一人パートナーが増えたんだったな」
今度はニヤニヤした顔でこちらを見てくる。
「いや、あれはパートナーになったと言っていいのかなんと言うか……」
正直な所、自分でも環さんとの関係には確証がもてていない。
確かに告白大会の時に放送で告白はされたし、恋戦の時には俺との繋がりで能力も使えた。
ただその後、俺から何か返事をしたこともなければ、あれ以降彼女もその件については触れてこない。
「ははぁーん、何やら訳ありって感じだな」
複雑そうな顔をしている俺からエレナは何かを悟ったようだ。
「まぁ……そうかな。困っている訳では無いけど、戸惑っているってのが本音かな」
今の曖昧な関係を続けていていいのか。
俺から何かを切り出すべきなのか。
切り出すなら何を言うべきなのか。
考えてみても答えは出てこない。
「いいか? そういう時はな、案外ノリでなんとかなるものだぞ。そいつと二人で恋戦でもやってみろよ。なんなら私たちが相手になるぞ?」
コイツに相談したのが間違いだったかもしれない。
火燐との関係を解決する糸口を教えてもらった乙音先輩に相談するべきだったかもしれない。
「あ、あぁ、そうだな。機会があればお願いするよ」
そんな機会は永遠に来ないだろうけどな。
「まっ、恋戦じゃなくても仲を深める機会なんていくらでもあるからな。──数日後を楽しみにしてな」
エレナが不敵な笑みを浮かべる。
「数日後? 何かあるのか?」
学校の行事で特に何かがある時期でもなかったはずだ。
「まーまー。それは当日が来てからのお楽しみってね。期待してなよ」
エレナが満面の笑みで答えてくる。
「そうか。それならその日を楽しみに待っておくよ」
これ以上何かを教えてくれる気もなさそうなので、大人しくエレナが言う当日を待つことにしよう。
「なぁなぁ、それよりアタシたちがお前に渡した指輪はどうなったんだよ。恋戦の時に渡したってことは知ってるんだけどな」
興味津々な感じで尋ねてくる。
こういう所はまさに年頃の女子といった感じだ。
「どうって特に何が変わったわけでもないぞ。火燐からのアプローチはいつも通り激しいままだよ」
指輪を渡したからと言って劇的に何かが変わった訳では無い。
強いて挙げるなら火燐が指輪を見つけては恍惚な表情を浮かべるようになったぐらいだ。
「んだよ、つまんねぇな。そのまま将来を誓いあってゴールインでもしろよ」
不満そうな顔で悪態を吐いてくる。
「まだ責任も財産も何も無い学生のうちにそんなこと出来るかよ。お前のパートナーの乙音先輩みたいならまだしもな。そういうお前こそ、乙音先輩と将来を誓いあったりでもしてるのか?」
将来を急ぎすぎてお互いに不幸になってしまうのはよろしくない。
「ふぇっ!? ななななんでそんなこと聞くんだよ!? そりゃあその私も乙音先輩も本気なわけだけど……」
何気なく聞いただけなのに何故かエレナはものすごく慌て始めた。
「いや、その……なんかごめん」
やぶ蛇だったようなので、とりあえず謝っておいた。
その後、顔を真っ赤にしたエレナと少々気まずい空気になりながら学校へと向かった。
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