愛すべき幽閉⑩
「それなら良しッ!!」
大きな声でそう答えた火燐は、無数の火球を放ち空中に浮いていた氷の塊を全て破壊した。
「……なんで……ッ!!」
先程までの火燐とは打って変わって、テンションが上がった姿に環さんは驚きを隠せないようだ。
「恋次はね、優しいのよ。アンタみたいな勘違いしちゃってるような女にもね。だからいつもは私がこうならないように事前に排除してたんだけど……」
火球を放ったポーズで静止したまま話し始める火燐。
「こうなっちゃ仕方がないわよねぇ!! 恋次の記憶からいなくなるぐらい貴女を完膚無きまでに消し炭にしてあげるわ!!」
瞳孔が完全に開いた状態で笑みを浮かべるその姿はさながらRPGに出てくる魔王のようだ。
「……ッ! 貴女なんかに負けないッ……!」
そして環さんの方は魔王に挑む勇者みたいな感じになってしまっている。
火燐、お前ちょっとハシャギすぎだぞ。
「……貴女に勝って、私は冷たくなって動かなくなった彼と永遠に過ごす……!!」
(え、それ俺死んでない?)
魔王は一人だと思っていたら、どうやら二人とも魔王だったようだ。
「アハハッ! アンタが私に勝つなんて思ってるその希望ごと消してあげるわ!」
「……負けないッ!」
二人が能力を発動させながら臨戦態勢をとる。
その時、地面から俺を取り囲むように氷の壁が生み出される。
「……これは時間制限。貴女が私を倒すのが先か。彼が私のモノになるか……。……ウフフ……」
火燐の言葉に乗って即座に激突するのかと思ったら、案外環さんは冷静だったようだ。
「寒ッ!?」
素直に感心してしまったが、さりげなく命のピンチだ。
「チッ、この期に及んで……! いいわ。さっさとアンタを片付けて恋次を救い出すッ!」
火燐は踵から炎を噴出させ、目にも止まらぬスピードで環さんに接近する。
「はぁっ!」
そしてそのまま勢いに乗って蹴りを繰り出す。
「……そんな攻撃じゃいつまで経っても私に届かない……」
しかし火燐の攻撃は氷の壁に阻まれる。
「えぇ、そうね。──氷にはやっぱりこれよね!」
ボオッ!
火燐が足に火を纏う。
「はぁぁぁ!!」
火を纏ったまま踵から炎を噴射して、空中で回転しながら攻撃を続ける。
「これで終わりよ!」
氷の壁を確実に溶かし、破壊しながら攻撃をしていた火燐は、最後に勢いよく蹴りを放ち環さんを後ろに飛ばした。
「はぁっ!」
そして回し蹴りの要領で蹴りを放ち、前方に大きな火柱を放った。
「……フフッ……」
これは完全に決まったと誰もが思った。
「なっ!?」
パキッと音が聞こえたかと思うと、音を立てながら火燐が出した炎が凍っていく。
「くっ!!」
そのままではヤバいと思ったのか、脚を引っ込め自分が凍るのを防いだ。
「……残念。貴女も凍ってくれれば後は砕いて終わりだったのに……」
凍った炎が音を立てて割れた先には、心底残念そうな顔をした環さんが立っていた。
(君たち相手に殺意持ちすぎじゃない?)
そんなものよりもっとスポーツマンシップ持とうよ。
「ッ……やってくれるじゃない……!」
まさか炎が凍らされると思っていなかったようで、火燐の顔には焦りが見える。
「……どうして貴女の炎が凍るのか、知りたい……?」
そんな火燐とは正反対に、環さんは余裕の笑みを浮かべて火燐に話しかけている。
「……そんなのアンタに言われるまでもないわ。今のはちょっと火力を抑えただけ。次で決めるわ」
(……?)
火燐の話に違和感を覚える。
(あれほど好戦的だったのに火力を抑える意味があるのか?)
火燐の性格からしてそれはありえない。
そんな俺の疑問はすぐに解消した。
「……いいえ、違う……。これもまた簡単な話……。私の彼に対する気持ちが、貴女の彼に対する気持ちより上回っただけ……」
なんとも恋戦らしい理由だった。
「……ッ! そんなことない! 私の恋次への気持ちがアンタなんかに負けてるはずがない!」
火燐は叫びながら火球を放つが、その全てがことごとく凍らされていく。
「……普段なら確かにそう……。特に前回の恋戦で見せた炎であれば溶かされていたのは私の氷……」
火燐の攻撃をあしらいながら環さんは徐々に火燐へと近づいていく。
「……ケンカでもした? ……クスクス……ケンカ」
不敵な笑みを浮かべながら火燐を見つめていた。
(──やられた!)
まさかここまで計算に入れていたなんて。
「アンタに関係ないでしょ!」
図星をつかれた火燐は環さんから距離を取りながら火球を飛ばす。
(確かに環さんの言う通り、今回の恋戦における火燐の火力は前回に比べると著しく下がっている)
今現在、環さんに向かって飛ばしている火球も弱々しい。
(その原因は環さんが言った通り、俺たちの諍いだろう。しかもその諍いの原因は環さんの告白によるものときた)
火燐が火球を飛ばしては環さんがそれを凍らせていくことの繰り返しをしている。
このままでは火燐の体力がいずれ尽きるのは目に見えている。
(乙音先輩の所で買った指輪を渡せていたらこうはならなかったはずだ……! いや、ここまで用意周到な彼女のことだ。俺たちの仲を修復させないように動いていたんだろう)
見事、彼女の術中にハマった俺たちはこの有様だ。
このまま火燐は負けて俺は氷漬けにされた状態で彼女の自宅に永久保存されるだろう。
(──そんなことになってたまるか!)
肺が凍りつきそうになるが、大きく息を吸い込む。
「かりぃぃぃん!!」
分厚い氷の内側から火燐を呼ぶ。
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