愛すべき幽閉③
「ごめんごめん。江良さん……でよかったかな?」
正直な所、自分としては火子と呼んだ方が分かりやすいが、機嫌を損ねたりしたら相談を聞いてもらえない可能性があるので我慢する。
「分かればいいのよ。恋愛弱者さん」
しっかりと名前を呼んだことで危機は回避できたが、不名誉な呼び名は継続中だ。
「その恋愛弱者って呼び方やめてくれないかな……!」
この学校では不名誉もいいところな呼び名だ。
「あら、ごめんなさい。でもまぁ事実を言ったまでなんですけどね……」
一瞬謝ってくれたと思ったけど、さては全然謝ってないなこの人。
「こらこら江夏。例え本当のことであっても人に言っていいことと悪いことがあるんだぞ」
小金井が江良さんをたしなめーーてないぞ。
前半に本当のことでもって言ってたな。
「くそぅ……、二人してバカにしやがって……」
自覚している分、余計に心にくる。
「い、いや、すまない……。僕はそういうつもりで言ったわけじゃ……」
俺が落ち込む素振りを見せると、小金井は焦った様子で謝ってくる。
「いいんですよ、翔くん。本当のことなんだから謝らなくって」
しかし、江良さんは俺への罵倒を止めない。
ははーん?
さては見たいんだな?
男子高校生のガチ泣き。
「ま、まぁまぁ。二人とも落ち着きなって……。ほらっ! 恋次も相談があって僕たちの所に来たんだろ?」
目の前でガチ泣きしてドン引きさせてやろうと思ったが、小金井が仲裁に入ったので未遂に終わった。
「そうだったな。わるいわるい、つい熱くなっちまったよ」
小金井に軽く謝罪をして本題に入る。
「それで何かいい案はないか? このままだと最終的に俺の目が潰されて他の女の人が見れないようになる」
まだ光は失いたくない。
「またまたそんな冗談を。……え? 冗談だよね? 冗談だと言ってよ!?」
最初は笑っていた小金井だったが、俺の真剣な顔を見て不安になったのか、肩を掴んで揺さぶってくる。
「そんな不安になるなよ〜! 冗談だって。……二割ぐらいだけど」
最後にボソッと付け加えた言葉を聞いた小金井は信じられないものを見る目でこちらを見てくる。
そんな顔で見てきても事実なんだ。
「……私も翔くんが他の女に目移りしそうになったら同じことしちゃおうかな〜……?」
江良さんがヌルッと小金井の背後から手を伸ばし、抱きしめる体制になりながら目隠しする要領で手を目の部分にもっていく。
「ヒッ……!?」
小金井から短い悲鳴があがる。
今の話を聞いた直後に、低めの声のトーンでそんなことを言われたら誰だって怯えるだろう。
「なーんてね! 騙された? 冗談よ、冗談! ……二割ぐらいだけどね」
「うわぁぁぁあああ!!?」
割と本気で目潰しをされるかもしれないと知った小金井は、叫び声を上げながら教室から逃げていった。
「待ってよ翔くん! 嘘だって! 今はしないよ! 今は!」
江良さんも教室から出ていった小金井を追いかけて席を立つ。
その言い方はもっと逆効果な気がする。
「あっ、そうだ」
席を立った江良さんがなにかを思い出したように立ち止まった。
「彼女さんの機嫌をとりたいなら何か贈り物でもしなさい。古今東西、女は好きな人からの贈り物には弱いのよ。ただ変なものをあげちゃダメだからね」
どうやら俺がした相談のアドバイスをしてくれているようだ。
「贈るものは自分で考えなさい。それじゃ。……翔くーん! 待ってぇー!」
それだけ言うと今度こそ小金井を追って教室を出ていった。
「なんだか適当に流された気もするが……。だが、贈り物をするってのはいい案な気もするな」
早速その案を実行しようと考えた俺は校内に存在するとある場所へと向かった。
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