荒れ狂う嫉妬の炎⑩
「はぁ!」
一番近くにいた岩子に向かって攻撃を仕掛ける。
実力で負けている以上、もはや手加減なんて言ってられない。
「やっ!」
岩子が地面に手をついて岩壁を作り出す。
「今更こんなもの!」
そのままの勢いで壁を殴りぬける。
「!? どこに行った?」
壁を破壊した先に岩子の姿はなかった。
ヒュゥゥゥ。
上空から風の音が聞こえる。
(上か!)
見上げると、風子の風に乗って上空から大きな岩の塊を落とそうとしている岩子の姿が見えた。
(くそっ……、反撃間に合うか?)
手に炎を溜めながら反撃試みるが間に合いそうにない。
「恋次、岩の破壊を頼むわ」
後ろから声が聞こえたかと思うと、火燐が物凄い勢いで岩子の方へと向かって走っていった。
「お、おう!?」
言われるがまま手元に溜めた炎を発射して、岩子が落としてきた巨岩と相殺させる。
破壊された岩の破片が空中に舞う。
「いい感じね」
そう言うと火燐はその場で跳躍して、空中に浮いている岩の破片を足場にして岩子の方へと向かっていく。
「なっ!?」
さすがにその移動方法は想定していなかったのか、驚愕でその場を動けなくなっている岩子。
「くっ!」
風子が動けなくなっている岩子を守るため、岩子を包んでいる風から刃を作り出し射出してくる。
「火燐の邪魔はさせん!」
風の刃を作り出している風子を止めに行く。
「それはこちらのセリフだ」
風子を止めに行く俺の前に小金井が立ちはだかる。
(くそ……、火燐の足場のことを考えると時間はかけていられないな)
火燐が使っている岩の破片の足場はそう長くもたない。
(勝機はこの一瞬にかかっている!)
小金井に邪魔されることなく風子の妨害をしなければならない。
「お前に構ってる暇はないんだ。これでも喰らえっ!」
臨戦態勢の小金井の目の前で、炎を纏わせた両手を思い切り叩く。
猫騙しだ。
「ぐっ!? こんなもの……!」
そして、手を叩くことで纏っていた炎を消して煙幕を発生させる。
(よし、 今のうちだ!)
煙幕に紛れて小金井の横を駆け抜ける。
「がっ!? なに……!?」
横を抜けようとした瞬間、横腹に衝撃が走る。
「いい作戦だったが相手が悪かったな。目が見えなくても、能力で風の流れを読むことが出来るんだ」
煙の中から小金井の勝ち誇った声が聞こえる。
(くそ一体どうすれば……。もう残された時間はわずかしかない。ここまでか……?)
"敗北"の二文字が頭をよぎる。
「恋次!」
上空から火燐の声が聞こえたかと思うと、数個の火球が地面に着弾し燃え広がった。
「勝って!」
その声を聞いて顔を上げる。
(そうだ……! 火燐はまだ戦ってるんだ。俺だけ先に諦めるわけにはいかない)
そして、ある事に気付く。
(風の動きが変わった……?)
理由は分からないが、考えるより先に身体が動いた。
「何度やっても同じことだ!」
もう一度煙幕を張り風子に突撃する。
さっきと同じく小金井の横をすり抜けようとする。
「そこだっ!」
小金井がまたしても煙の中から攻撃を仕掛けてくる。
しかしーー。
「なにっ!?」
小金井の攻撃は空を切った。
その隙をついて、俺は小金井の横をすり抜け、ついに風子の目の前にたどり着いた。
「くっ……!?」
炎を纏った拳を繰り出すと、岩子の援護を止めて風の膜を張り防御の体勢をとる風子。
「風が分散して……!?」
そして、上空でも風の刃による攻撃が止んだタイミングを見計らって火燐が一気に岩の破片を駆け上がる。
「はぁ!」
「やぁ!」
俺は右拳、火燐は左の拳を握りしめそれぞれ風子と岩子に振り抜く。
「「キャァァァアアア!?」」
二人はそのまま吹き飛ばされていき、場外へと出ていった。
「形勢逆転……」
「だな?」
火燐が地上に着地して、二人で小金井と対峙する。
「見事だな……。地表面を炎で温めて上昇気流を発生させ、気圧差を作り風の流れる向きを変えるとはな……」
今の一瞬で火燐はそこまで計算して地面に炎を放ったのか。
今回はなにからなにまで火燐に頼りっぱなしだな。
「さて、これで二対一になったが……。 降参でもするか?」
俺的にはこのまま降参してくれた方が助かるが。
「するわけないだろ……! ここで僕一人戦わずに逃げてしまったら、今まで全力で戦った彼女たちに申し訳が立たない!」
そう言いながら構える小金井。
……まっ、そうなるよな。
「火燐……、いい所だけとるようで申し訳ないがここは俺に任せてくれないか?」
隣で佇む火燐に対して、小金井との一騎討ちを申し出る。
「分かったわ。私ももう疲れたから後は恋次に任せた」
そう言うと自ら場外へと出ていった。
「お互いにボロボロ。もう戦いを続ける気力もない。この一発で勝負をつけるか」
握りこぶしを作り、小金井に提案する。
「あぁ、そうしようじゃないか」
小金井も握りこぶしを構えて俺の提案を受け入れてくれる。
「「うぉぉぉおおお!!!」」
お互いに向かいあい、同時に走り出す。
「おらぁ!」
「はぁっ!」
二人同時に拳を顔面に向かって振り下ろす。
お互いの拳がそれぞれの顔面にめり込む。
「これで……終わりだァ!!」
そのまま拳を振り抜き、小金井をそのまま場外へと吹き飛ばす。
「く……そ……」
場外へと吹き飛ばされた小金井は悔しそうにそう呟いた。
『試合終了ー!! この度の恋戦、勝者は赤井恋次と小野火燐のペア!』
外で待機していた先生による勝者宣言がなされ会場が歓声に包まれた。
「ふぅ……、終わったか」
疲労と緊張感から解放され、その場に座り込む。
「お疲れ様、相変わらずかっこよかったわ」
火燐が近くに寄ってきて手を差し伸べてくれる。
「はははっ……、ありがとな」
その手を握って立ち上がり、一緒に出口へと向かう。
「でも明日から忙しくなるわね……」
火燐が困ったように腕を組んでいる。
「どうしてだ?」
まだ進級したてで特に表立った行事はないはずだが。
「今日恋次がかっこいい姿見せたでしょ? それでまた恋次に近づくやつが現れるかと思うとね……」
真剣な顔で変な事を言っている火燐。
「いや、うん。まぁ……程々にね?」
特に活躍してない俺にそんなのは来ないと思うが、疲労で否定するのも億劫だったので流しておいた。
そして、初めての恋戦が終わった次の日。
「おーっす。昨日は大変だったな」
教室へ着くと郷が挨拶をしてきた。
「お前誰だ? 俺には親友を賭けの対象にするような友人はいないはずだが……」
昨日の恋戦で賭け事をしていたのは、俺は忘れていないぞ。
「まぁ、そう怒るなって。俺たちは楽しかったぞ」
ニコニコ顔で肩に手を置いてくる。
こいつ儲けたな?
「少しの間昼飯奢りな」
それだけ言い残して、席に荷物を置きに行く。
「恋次ぃー! おはよー!」
その時、教室の扉が開き聞き慣れた声が耳に届いた。
「火燐!? どうしてここに?」
確か火燐は別のクラスだったはずだが。
「昨日私たち恋戦に勝ったでしょ? その時に私が勝った時の条件として、このクラスにいる子とクラスを交換するって決めてたんだ」
い、いつの間に……。
というかそんなことしてもいいのか。
「それじゃあ、改めてよろしくね。恋次!」
火燐に抱きつかれながら、この先の学校生活が波乱に満ちたものにならないこと切に願うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます