第25話 生活家具の設置完了
家の中を一通り見ていくと、ニーナは畑のお手伝いをする時間になったらしく出て行った。
もう少し新築について語り合いたかったが、お仕事は大事なので仕方がない。
家に一人残った俺はそのまままったりとソファーでくつろいで……といきたいが、ここは王都の屋敷のように何もかも家具があるわけではないのでそうはいかない。
家の中にはほとんど物がなく、家と呼ぶには寂しすぎる状況。
しかし、俺はこんな状況を即座に打破すべく入念に準備をしていた。
王都で買い込んでいた家具の数々を亜空間から取り出しては設置していく。
一人では運べないような重さのものでも、そのまま亜空間から出してしまえば、わざわざ自分で運ぶ必要もないので楽ちんだ。
テーブル、イス、ソファー、カーペット、クローゼット、食器棚、本棚などといった生活家具をドンドンと設置していく。
すると、寂しかった部屋はあっという間に人の営みが感じられるものになった。
「おー! 自分だけの家っぽくなった!」
その出来栄えに思わず感動の声が漏れる。
前世の家ならスペースを気にして置けなかったソファーも、今では広いリビングの中央に堂々と鎮座している。ソファーを置いてもスペースを圧迫されることもない。
テーブルやイスも自分にとって座り心地の良いものを集めているので、センスはともかく自分としては大いに満足だ。
なんなら調子に乗って観葉植物なんて置いちゃっている始末。
「どうしても1Kの部屋でできるインテリアには限界もあったしな」
一人暮らしになると、どうも効率化を意識してしまうので無駄を省くものになってしまう。
イスは丈夫で壊れにくいものや、皿はふちが少なくて洗いやすいものなどと。
しかし、異世界での暮らしにはしっかりとした時間と心の余裕がある。だから、今回は前世では切り捨てていたものなんかも買い込んでいるのだ。
リビングが終わると、台所に食器棚なんかを置いて食器を収納。さらに調理道具や調味料なんかも棚に入れていく。
「もう夕方か……」
玄関のインテリアを飾ったり、寝室を整えたりとしていたら、いつの間にか窓から夕日が差し込んでいることに気付いた。
夢中になって内装を整えたらあっという間に時間が経過していた。
実際に物を置いていくと、細々と足りないものが発見されたけど、どれも急ぐものでもないしゆっくりと買い足せばいいだろう。暗くなる前に準備が終わってよかった。
「これでもう生活ができるな」
たった半日で準備が終わるなんて、二週間前からの入念な準備のお陰だな。
達成感に満ち溢れていた俺はそのままソファーで寝転がる。しかし、ほどなくして扉がノックされた。
慌てて起き上がって扉を開くと、そこにはアンドレがいた。
「よう、クレト!」
「アンドレさん!」
「今日からここに住むんだろ? 仕事で遅くなっちまったが手伝いにきてやったぜ!」
ニカッとした笑みを浮かべて嬉しいことを言ってくれるアンドレ。
「ありがとうございます。でも、準備はついさっき終わったんですよね」
「嘘だろ? 改築したばかりですっからかんだってのに、もう準備が終わったのか?」
駆け付けたはいいが、既に仕事は終わっていた。
ちょっと間抜けな事態にアンドレは呆然としている。
「俺には荷物を便利に取り出しできる魔法がありますから」
「……相変わらずクレトの魔法はすげえな。って、ことは本当にもう手伝うことはねえのか?」
「そうなりますね」
「なら今から新居祝いでもするか! ステラには準備で忙しいからって止められてたけど、終わってるんならいいだろう?」
「ええ、今から料理を作るのは億劫に感じていたので大歓迎です! なんなら、うちの台所で料理してくれても構いませんよ」
時刻は既に夕方。家の準備を半日ぶっ通しでやっていたので昼食も摂っていない。お腹は空いているけど、疲労で作る気力があまりないというジレンマに覆われていたので嬉しい提案だった。
全部を作ってもらうつもりはないけど、少し手伝うだけでいいのなら万々歳だ。
「ちょっと待ってろ。ステラとニーナを呼んでくる!」
アンドレはテンションが上がった声でそう言うと、玄関から自分の家へと走って戻っていった。
顔に見合わず若々しい姿を披露するアンドレが微笑ましいな。
亜空間から追加のスリッパを取り出して並べていると、ほどなくしてアンドレがニーナとステラを連れて戻ってきた。
「またきたよ、クレト!」
「こんにちは、クレトさん。引っ越してきた初日ですが、お邪魔してしまって大丈夫なのでしょうか?」
食材を手にしたままおずおずと尋ねてくるステラ。
引っ越し初日に尋ねるって、ちょっと抵抗感あるものだからな。
「本当に大丈夫ですよ。家の準備は終わっていますので」
「それならお邪魔いたしますね」
「クレトの家は土足禁止だから、靴は脱いで、こっちのスリッパを履いてね」
安心してステラが玄関に入ってきたところで、ニーナがここぞとばかりに言い放った。
私は知ってるんだぞと胸を張るニーナが微笑ましい。
「ニーナの言う通りにしてくれると助かります」
「この草履みたいなのに履き替えればいいんだな」
「あっ、すごく軽くて楽ですね」
アンドレとステラは少し戸惑いながらもスリッパを履いてくれた。
そのまま三人を連れてリビングへと案内する。
「うわー! 朝と全然違って家らしくなってる!」
「とても広くて綺麗ですね」
「これは驚いたぜ」
生活家具などが揃って、すっかりと家らしくなっている室内にニーナたちは驚いているようだ。
「ここが台所です。調理器具や調味料も一通り揃っていると思いますので、自由に使ってもらっても構いませんよ」
「こ、こんな立派な台所を私が最初に使ってしまってもいいのでしょうか?」
控えめな台詞を言いつつも、ステラの目はキラキラと輝いていた。
「俺も手伝いますし構いませんよ。こうやって皆で使えるように広く作りましたから」
「とてもいい考えだと思います!」
どこか尊敬の眼差しを向けてくるステラ。
広い台所で皆と料理をすることに憧れがあったのかもしれないな。
「お父さん! クレトの家を探検しよう!」
「おお、そうだな!」
ニーナとアンドレは俺の家を探検するのか、意気揚々とリビングを出て行った。
「なんだか騒がしくてすみません」
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも料理を作りましょうか」
「はい。とはいても、いくつか家で作っていたものがあったので持ってきちゃいました」
そう恥ずかしそうにいうステラの手の中には大きな鍋が。
蓋を開けてみると、そこにはジャガイモのポタージュが入っていた。
ミルクとバターとジャガイモの香りが何ともたまらない。
「すごく美味しそうですね。冷製ポタージュですか?」
「はい。最近暑くなってきたので、冷たいものが欲しいなと思いまして」
「最高ですね」
この世界には四季というものはあり、春、夏、秋、冬と四つの季節が巡ってくる。
そして、今はその夏に差し掛かる頃合いなので、ちょうどこのような冷たいものが欲しくなる季節なのだ。
「あと、鹿肉のローストビーフも作ってきました」
「何からなにまですみません」
「いえいえ」
「それらはほぼ完成品として、他には何を作りましょうか?」
ステラの手の中にはいくつかの食材がある。彼女のことなので、ただなんとなく持ってきたのではなく、何か作ろうと思っている料理があるはずだ。
「はい、キノコのアヒージョと肉野菜炒め。それと付け合わせのサラダを作ろうかと」
「それくらいなら俺でもお手伝いできます」
「頼もしいです。では、あの二人がお腹を空かせてしまう前に作ってしまいましょうか」
「ですね!」
ステラと笑い合った俺は、この家で初めての料理に取り掛かかった。
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