第21話 泡沫の詠

 昼休みに教室で昼食を広げる。

 正面には宮本詠歌。

 左には藤沢リーナ。

 右には里見幸大。

 いつもの面子。


 僕はコンビニで買ったアンパンとパックの牛乳という黄金コンビを。

 詠歌はブロック状の有名なバランス栄養食のフルーツ味とコーヒー牛乳。

 藤沢さんは鞄からホットプレートを取り出し、牛タンやカルビ、ホルモンのパック詰めを机に並べる。飲み物はパックのストレートティー。

 里見は鳥のささみだらけの弁当箱と、プロテインの缶と牛乳を取り出し、プロテインを専用のシェイカーに入れて豪快に振り始めた。


「どうしたのこれ」

「昨日の夕飯の残り物ー」

「そっか昨日は焼肉だったんだね」


 夕飯の残り物をお母さんが翌日のお昼にアレンジして持たせるのはよくあることだ。これはアレンジしていないけれど、まあそういうこともある。

 藤沢さんが焼肉を焼き始めると、食欲を誘ういい香りが辺りに充満する。

 僕は最高に美味しい組み合わせの食事をしているというのに、眼前のそれが羨ましい。


「食べる?」

「えっ、いいの」

「いいよー。皆で食べよー」

「ありがとう。リーナちゃん」


 藤沢さんからの有難い申し出を受けて、四人共箸を取り出していい感じに焼けた牛タンを頂く。

 薄切りされたものでありながら弾力ある歯ごたえと、塩とネギがアクセントになって美味い!

 レモン汁も欲しいところなんだけど、流石にそれは無理か。


「これどうぞー」


 藤沢さんがおっぱいの谷間に手を差し入れると、そこからレモンを取り出した。


「ありがとう。だけどどうやって絞ろうか」


 ここにはレモンを絞るものがない。どうしようかと悩みながら、レモンに頬ずりする。藤沢さんのおっぱいの谷間から出てきたものだからね。


「僕に貸して」


 里見が自信満々に手を差し出すので、どうするのか分からないが渡してやる。


「フンッ!」


 気合の声と共に、片手でレモンを握りつぶしやがった。

 おかげで机の上がビショビショだ。


「絞る場所を考えろよ。馬鹿野郎!」


 右フックを里見の頬に叩き込む。

 里見は錐もみ回転しながら、机や椅子ごと吹っ飛んだ。

 さあ馬鹿もいなくなったことだし、昼食を再開しよう。

 レモンは無くなってしまったが、美味しいのは変わらない。

 気付けばあっという間に牛タンはなくなってしまった。


「次はカルビだよー。これも食べていいからね」

「焼肉のたれは……」

「はいどうぞー」


 藤沢さんがまたもおっぱいの谷間から焼肉のたれを取り出した。

 やっぱりおっぱいって偉大だな。こんなにいろいろなものを仕舞えるなんて。

 感心しながらおっぱいの谷間を覗きこむ。


「純ってばリーナちゃんのおっぱい見すぎぃ」

「いや、そんなことないってば」

「私に告白したくせに、他の子のおっぱいばっかり見ないでよ。見るなら私のにして」


 おっと。どうやらやきもちを焼いているようだ。

 夏服であるシャツの胸元を開けてみせ、僕にBカップの谷間を見せてくる。

 藤沢さんよりは小さいものの、これはこれでいいものだ。

 こんなにアピールしてくるんだ。今なら揉んでも怒られないだろう。

 詠歌の胸元に手を伸ばす。

 服の上からなんて無粋な真似はしない。

 ピンク色のブラジャーの中に手を突っ込む。

 指先に当たるのは、ふわっふわな柔らかさ。

 更に奥へと手を伸ばし、おっぱいを鷲掴みにすると手の平に吸い付くようなもっちりとした感触。

 それでいて軽く反発するような弾力もあって、温かい。

 このままでも有り余る幸福感だが、もっともっと味わいたい。

 右手でだけ揉んでいるのが勿体ない。

 名残惜しいが一旦手を引き抜き、両手で揉むべく詠歌の後ろに回り込み、制服の下から両手を――。



 目の前に居たはずの宮本さんの姿は消え、映るのは白い天井。

 急な場面転換ながら、すぐに理解に及ぶ。


「夢、か」


 夢の内容を思い返すと、ありえないことがいろいろあった。

 だがもう少し見ていたかったと悔やまれる。あと少しで両手でおっぱいが揉めるところだったから。

 夢から覚めても、未だ微かにおっぱいを揉んだ感触が残っているような気がした。

 あの柔らかさ。

 あの温かさ。

 実際に揉んだことはないが、きっとあんな感じなんだろう。

 手をわきわきと握っては開きを繰り返す。

 この夢の残滓が消え去らないうちに……。


 ベッドに腰掛け、手元にはティッシュボックス。足元にはゴミ箱を用意。

 パジャマのズボンとパンツを下げ、朝勃ちしている息子を掴み、いざ参らん。


「遊びに来たよ!」

「ばっ!?」


 馬鹿が部屋に乱入した。

 即座にズボンを上げ息子を隠すがもう遅い。

 がっつりと見られた。


「お邪魔しましたー」


 そう言ってドアを閉めて去ろうとする静香。

 このまま返すわけにはいかないと、慌てて追いかけ、ドアを閉めた直後の静香を部屋に連れ戻す。


「ちんこ触った手で触らないで!」

「ばっか。ちんことか言うな」


 慎ましさを少しは持ってほしい。


「お前、絶対に母さんに言うなよ」

「えー」


 やっぱり言う気だったか。

 危ないところだ。


「マジで。マジで頼むから」

「どうしよっかなぁ」

「なにがお望みですか」

「スイーツ食べ放題」

「ぐぅっ。分かった」


 小遣いを減らされたばかりだというのに、余計な出費がかさむことになった。

 だが背に腹は代えられない。


「やった。じゃあ私帰るから」


 約束を取り付けるだけ取り付けて帰るようだ。

 遊びにきたようだが、そうしてくれると助かる。

 朝勃ちのため、未だに息子は鎮まっていないから。


「じゃあ続けていいよ」

「うるせえよ」


 心の内を読まれかのようでドキッとした。

 廊下に出た静香が、そのまま去るかと思えば顔だけ出してこちらを振り返る。


「純、おっきくなったね」

「帰れ!」

「キャー」


 わざとらしく叫んで静香は今度こそ帰って行った。

 気を取り直してベッドに再度腰掛ける。

 夢の内容は既におぼろげになっていた。

 仕方ないので昨日借りてきたエロ本を開く。



「ふうぅっ」


 朝からスッキリした。

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