第11話 あいつ俺に惚れてるんだぜ

「話があるんだ」


 一時間目の授業終わりに里見がそんなことを言ってきた。

 誘われるまま、二人で廊下の端まで向かう。


「どこまで連れて行いかれるかと思ったよ。それで話って何」

「昨日のお昼に話してたことなんだけど」

「どの話?里見君がロリコンだってやつ?」

「しっ。他の誰かに聞かれたらどうするんだ。ただでさえこの学校は――。いや今はその話はいい」


 なんか気になることを口走ったよね、今。

 それをまずは教えてほしい。


「椎名君の幼馴染を紹介して欲しい」

「いいけど」

「えっ、いいの?」


 あっさり承諾したことに驚かれた。

 構わないさ。

 だって僕は静香を恋愛対象にしていないし、里見がロリコンだろうと興味がないんだから。

 紹介してくれと言われたら、そうするのも吝かではない。


「ただし条件がある」


 ギブアンドテイク、等価交換、持ちつ持たれつ。

 言い方はいろいろあるけれど里見にも提供できるものがあるんだから、無償で紹介するのも勿体ないので取引を持ちかけるとしよう。


「なんでも言ってくれ」

「……」

「どうしたんだい」

「ごめん。ちょっと待ってくれ」


 どうしようか。いざ条件を考えてみると意外といい案が浮かばない。

 藤沢さんの連絡先を教えてくれって言うのは、そのうち出来そうなことだから必要ないし、おっぱいを揉ませてくれっていうのは里見に頼んでも無理だろう。

 そうすると何をお願いすればいいのか分からなくなってしまった。


「そっか。やっぱり紹介するのが嫌になったんだね。分かるよ。まさに奇跡のような子だもんね。低い身長に童顔。見た目は完全に小学生だ。茶髪、今は金髪だっけ。それにピアスの穴を開けているのは大人ぶった少女の精一杯の背伸びっぽくていいよね。しかもあの輝くような無垢な笑顔ときたら、その尊顔を眺めているだけで心が浄化されるちゃうよね。お兄ちゃんって呼ばれたら、いやお義兄ちゃんがいいな。そう呼ばれたら天にも昇るほど嬉しくなること請け合いさ。なのに高校生?同年代?素晴らしい。イエスロリータノータッチ。それが僕らの合言葉さ。だから眺めているしか出来ないはずの存在なんだ。だというのに君の幼馴染はどうだい。合法だ。あれほどまでに見た目が小学生の高校生なんて全国を探し回ったってなかなか、いや絶対に見つからないよ。でもまさかそんな存在が同じ高校にいて、しかも僕の後ろの席の君と幼馴染だというじゃないか。これを逃したら僕は一生後悔する。だからお願いだよ。惜しくなる気持ちも分かるが条件を言ってくれ。そして彼女を紹介してください。この通りです、お願いします」


 90度よりも更に腰を深く折って懇願してくる里見。

 いやこえーわ。

 自分に置き換えると、僕だっておっぱいを揉むためなら頭を下げるくらいは訳ないんだけどここまで熱くロリコンの熱意を語って来られると恐怖を感じる。


「紹介しないわけじゃないから。ただ交換条件が思いつかないだけだから」

「そっか。早とちりしちゃったよ」


 必死な顔だったのが爽やかな笑顔に変わり、頬を掻く里見。

 いやイケメン高校球児がそれらしい笑顔を浮かべたって、もうロリに情熱を燃やしてるって分かってる状態だと魅力もなにもないな。

 友情・努力・勝利・ロリって食い合わせが悪すぎて腹壊すわ。


「椎名君って胸が好きだよね。それならリーナのブラでも、いやこれは駄目か。彼らにバレたら多分処刑対象だ」


 えっ、なにそれ。

 お前藤沢さんのブラを持って来てこれんの?

 それはかなり興味を引くんだけど。脱いだ後に洗ってない状態で欲しいんですけど。

 っていうか僕がおっぱいが好きってなんで知ってんの?

 処刑対象って何?

 お前の周りって処刑人いるの?

 どこから突っ込めばいいんだ。


「ブラが駄目なら、写真、いやこれも……」

「里見君、里見君ってば」


 ぶつぶつ言い始めた里見に呼び掛ける。


「なになに、交換条件が思いついたの?」

「断言してるけど、僕が胸が好きってどこから出てきたの」

「ああ、隠さなくてもいいよ。隠せてないし。あれだけ胸をガン見とチラ見をしてれば、そりゃあ分かるよ。それよりも条件を」


 マジかー。バレてんのか僕。

 それって藤沢さんと宮本さんにもバレてるのかな。

 だとすればかなり今後気まずいんですけど。

 振り返ってみると、ここ二日の昼休みに結構見ちゃってるんだよね。

 でも昨日とか宮本さんと結構いい感じだったと思うんだ。

 あれはバレてないからこその雰囲気じゃないのか?

 もし気付いていてあれとなれば……宮本さんは僕のことがかなり好きなのでは?

 本人にそこのところを確認したいんだけど、もし違ったらヤバいし聞けない。


 重大な難問にぶち当たったところでチャイムの音が響く。


「次の休み時間にまた話そう」


 里見に促され教室に戻る。

 教室に入ると宮本さんの姿を探してしまう。

 教室後方窓側の席。座っていた彼女と目が合った。

 にこりと微笑まれやっぱり、と確信に近づいた。


 あいつ、俺に惚れてるわ。

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