せいとかいるいじろく#10

 前回、話の区切りが良いところでパイセンこと芹沢海パイセンが手土産のピッツァを切り分けに生徒会室の給湯室へ向かったところから再開します。

 ちなみに、前々回からの時間軸は終了後……つまり、パイセンが七海パイセンに生徒会長の職を引き継いでから一、二週間後です。


 時間軸に関する設定を今更ながら公開し、給湯室にピッツァを切り分けに行ったパイセンを待っていたさやちゃんの目にある物が映りました。

「おやおや? これはパイセンのスマートフォンでは?」

「残念だが、ロックかけているから中は見られないぞ」

 わざとらしく大きな声で言ってみたさやちゃんにパイセンはまんまと釣られてそう返答しました。

 しかぁし、スマートフォンにロックがかかっていても見ることが出来るものと出来る事はあります。

 スマートフォンを使う現代人の読者ならご存じのはず……えっ?

「私の時代ではスマートフォンはもう古いデバイスだ」

 ですって? じゃあ、こう言いかえることにしましょう。2020年代前半の瞬間瞬間を必死に生きた読者の皆様ならもちろんご存じのはず。

「パイセン、ロックがかかっていてもロック画面は見ることが出来ますし、カメラ機能なら使えちゃいますよ~」

 流石のさやちゃんも使うつもりは無いので言いませんでしたが、一応緊急通報も出来ます。不必要な緊急通報はしないように! これ、さやちゃんとの約束です。

「俺のスマホのロック画面なんて見ても面白くないぞ」

「そんな訳無いじゃないですか~」

 からの、

「ホンマや」

 さやちゃんはそういうつもりでしたが、パイセンはさやちゃんの想定していなかった画像をロック画面に登録していました。が、取りあえずそれに関して問いただす前に……。

「さやちゃんの自撮り画像を三十枚くらい撮っておきますね」

「あとで消去するからな」

 そう言っておきながら結局消去することなく残しておくことをさやちゃんは理解しているので遠慮なんてしないで自撮りを撮りまくっておきました。


「この量、三十枚じゃ収まっていないだろ」

 ピッツァを切り分けて持って来てくれたパイセンは画像フォルダに保存されたさやちゃんの自撮り画像を呆れたように見つめながらため息交じりにそう言いました。

「そんな事よりもロック画面ですよ、ロック画面!」

「そう言えば、これになっていたか」

 さやちゃんが驚愕したパイセンのスマートフォンのロック画面は現役JKのさやちゃんでも真似したいと思ってしまうほどしっかりと撮影された明日香先輩とのツーショットプリクラでした。

「そもそもどんな流れでこれを撮ることになったんです?」

 賢明な読者の皆様なら言わなくてもわかるでしょうが、ここからは回想のお時間です。




 その日は一日中晴れの予報でした。

「マジか、聞いてねぇよ」

「あと三時間くらい降るみたい」

 駅ビルの中にある映画館に二人きりで映画を観に行っていたパイセンと明日香先輩は天気情報アプリ曰くまだしばらくは降り続ける大雨を前に落胆しました。

「三時間か……どこかで時間でも潰せれば良いけど」

「ゲームセンターは? 確か、映画の半券があればクレーンゲームできるってCMが流れていなかった?」

「折角だから行ってみるか」

 明日香先輩の提案に乗ったパイセンは雨が止むまでの時間潰しにゲームセンターへ向かいました。

「海はゲームセンターには来ることあるの?」

「いや、俺は基本家庭用ゲームしかやらないから。明日香は? あんまりイメージは無いけど」

「一人で来るなんて事は無いけれど、紗綾に連れて来られるから」

「確かに紗綾は好きそうだよな。とか」

 パイセンの目線の先にはプリクラを撮影する機械がズラリと並んでいました。

「もしかして興味があるの?」

「興味が無いと言えばウソになるが、俺は入れないみたいだな」

 撮って見たいという気持ちがあったらしいパイセンですが、『男性の立入禁止』と書かれた注意書きを見て肩を落としました。

「肩を落とすほど撮りたかったの?」

「そう言う訳ではないけど……」

 パイセンは明らかに気分が落ちていました。それを間近で見て気付いていた明日香先輩はパイセンの手を取りました。

「ついて来て」

「ま、待てって俺はそっちに入れないんだって」

「ちゃんと読んで。『ただしカップルを除く』つまり、か……カップルに見えるなら問題は無いでしょう?」

 そんな筈がないと思っていたパイセンですが、プリクラが置かれたゾーンのスタッフに驚くほどあっさりとカップルとして認められました。

「無理矢理連れてきてこんなことを言うのも変だけれど、私たちって傍から見ればカップルにしか見えないのね」

「俺なんかとカップルに見えるなんて明日香からすれば屈辱以外の何物でもないだろ?」

「……そ、そうね。だからさっさと終わらせてクレーンゲームをやりましょう」




「という経緯があって撮ったのがこのプリクラな訳だ」

「なるほどですね。明日香先輩にとって屈辱以外の何物でもないプリクラをパイセンは明日香先輩でも見ることが出来てしまうスマートフォンのロック画面に設定したとは趣味が悪いですねぇ」

「そ、そんなつもりは」

「冗談ですよ。明日香先輩だってそれくらいで怒るような器の小さい人ではないはずですよ」

 明日香先輩の場合むしろ内心で大喜びしてしまうような気がしますが。

「でも、その画像さやちゃん以外には見せないで下さいね」

「そうだよな、明日香も恥ずかしいだろうし」

 パイセンとさやちゃんではの捉え方が異なっているような気がしました。


「それはそうとして、パイセンがそこそこの長話をするから紅茶が冷めちゃったじゃないですかぁ」

「悪い、淹れなおすよ」

「お願いします」

 と、パイセンが紅茶を淹れなおしに行ってくれたところで今回の区切りにしましょう。

「さやちゃん、ココアでも良いかな?」

「少しだけ忙しいのでパイセンにお任せします」

 リズムを狂わされてしまいましたが、いつもの挨拶で締めましょう。もし良ければコメントに残してくれても良いですよ。準備は良いですか? それでは皆さん、ばっは~。

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