ちょっとおくれて

「失礼します」

 SNSで恵吾くんに呼び出された美沙は待ち合わせ場所である家庭科室にやってきました。

「あっ、美沙先輩早いですね。ちょっと待っていてもらっても良いですか? すぐに出来るので」

「良いけど、何を作っているの?」

 美沙が来るだいぶ前から家庭科室に来ていたらしい恵吾くんは美味しそうなにおいを漂わせながら何かを作っている最中でした。

「えっと、日ごろ美沙先輩には大変お世話になっているのでお礼をと思いまして」

「お礼なんて良いのに。それにしても随分と美味しそうなにおいがするね」

「取りあえず、座ってください」

 指定された席に座ると同時に恵吾くんの準備も整ったようで、恵吾くんが美沙の前に料理を運んできてくれました。

「これって、恵吾くんの手作り?」

「はい。食材は園芸部が明才高校で育てているものを分けてくれたのでそれを使いました。美沙先輩に出しても恥ずかしくないものにはなっているはずなので、召し上がって頂けますか?」

「恵吾くんが作ってくれたものだもん。食べないなんて罰当たりなこと出来るはずが無いよ」

 美沙がそう言うと、不安そうに聞いてきた恵吾くんはホッとして笑みをこぼしました。

「それじゃあ、まずはおにぎりからいただきます」

 恵吾くんの握ったおにぎりは綺麗に三角形になっていて、丁度良い塩加減が美沙の口に広がりました。

「中身は、しそ?」

「はい、しそを味噌で和えてみました」

 ほどよく甘い味噌に細かく刻まれたしそを和えたことで美沙の食欲が刺激されて、美沙の両手くらいの大きさだったおにぎりはすぐに無くなってしまいました。

「こっちは、天ぷらだよね?」

 聞くまでも無いことではありましたが、あまりにもお手本のような揚がり方をした茄子、カボチャ、サツマイモ、獅子唐、シイタケ、秋の味覚五種類が一堂に会した天ぷらを見て美沙は驚きを隠すことが出来ませんでした。

「食べて良いの?」

「はい、揚げたてなので火傷しないように気をつけてください」

 恵吾くんはそう忠告してくれましたが、あまりにも美味しそうな天ぷらだったので美沙はつい口いっぱいに頬張ってしまいました。

「あふっ、ふっ、ふっ。美味しい。美味しいよ、恵吾くん」

「ありがとうございます。それと……ちょっと遅くなりましたけど、大学受験合格おめでとうございます」

「ありがとう。皆から色々な祝福を受けたけれど、恵吾くんの祝福が一番嬉しかった」

 美沙のことを祝福してくれた多くの人たちには本当に申し訳ないとは思いましたが、美沙は心の底からそう感じました。



生徒会議事録

 今年の園芸部は大収穫だったみたいだな。 芹沢

 秋の味覚をたくさんいただきました。今夜は天ぷらですかね。 笑舞

 ナナもママに頼んで今晩は天ぷらにしてもらおうかな。 七海

 サツマイモで炊き込みご飯も良いかもしれないわね。 明日香

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