もとかの

「海は居る?」

 見慣れない三年生の女子生徒が生徒会室にやって来ると、教室の空気がピリっと変わったのを感じました。

「海なら外出中だけれど?」

「ん~ じゃあ、少し待たせてもらおうかな」

 そう言うと、その女子生徒は海先輩の席に座り込みました。

「伊吹、そこはあなたが座って良いような席ではないのだけれど」

「へぇ、この教室は座って良い椅子とダメな椅子があるんだ。生徒会会則の第1条に『生徒は平等の権利を持つ』という記述があるのに」

 明日香先輩に伊吹と呼ばれた女子生徒は懐から取り出したボイスレコーダーをちらつかせながらそう言っていました。

「伊吹ったら、明日香ジョークに決まっているでしょ。そうだよね?」

「え、えぇ。ジョークに決まっているじゃない」

「明日香って昔からつまらない冗談ばかり。そういうの、海が一番嫌うと思うけど?」

 その言葉で生徒会室の空気が再びピリっと変わったのを感じました。

「誰が誰を嫌うって?」

 あまり気持ちの良いとは言えない空気が満ちていた空気をその声、その言葉は一瞬で浄化しました。

「あら? 意外とお早いお帰りで」

「あの日から待ち合わせには絶対に遅れないと心に決めているからな」

「それじゃあ、さっさと始めちゃおうか。あまり明日香に意地悪したら美沙に怒られそうだし」

「その前に俺が説教してやるよ」

 そう言うと二人は談話室に消えていきました。

「笑舞、今の先輩って?」

「迷路伊吹先輩。会長たちと同じクラスで幼馴染そして……」

 笑舞は何故かスッと言葉を出しませんでした。視線の端の方に映っていた美沙先輩と明日香先輩は黙って床を見つめていました。

「そして、会長の小学生時代の彼女」

 生徒会室の空気が一瞬のうちに凍り付いてしまったのを嫌になるくらい感じました。




明日香 「伊吹はいつまで海の彼女のつもりなの?」

海 「さぁ?」

明日香 「さぁ? じゃないでしょう」

海 「何をそんなに怒っているんだ?」

明日香 「いつまでも彼女面なのが気に入らないの」

明日香 「伊吹と別れたのは小学校三年生の時でしょ?」

海 「そう、だったかな?」

海 「よく覚えているな」

明日香 「自分の事でしょう?」

明日香 「それくらい覚えていなさい」

海 「まぁ、俺がまた伊吹と付き合う事は無いよ」

海 「これは絶対」

明日香 「そんなことは聞いていないから」

海 「お、おう」

海 「それは失礼した」

明日香 「嘘吐いたら針千本飲んでもらうから」

海 「約束するよ」

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