6月
さいん
「ねぇ、やっぱりさっきのそうだよ」
「そんな訳無いでしょ。見間違い」
すれ違った一年生はそんな話をしていた。
俺には関係の無い話であるのは分かっているが、何を何と見間違えたのか気になってしまう。
「海パイセ~ン」
答えの出ない問を必死に解こうとしていると無駄に元気な声が俺の思考の邪魔をした。
「可愛い後輩の声を『無駄に元気』とか失礼なことを言いますねぇ!」
「ごめんごめん」
本気で怒っている訳では無さそうなので俺も適当に謝ってみる。
「でも、こんな事さやちゃんくらいにしか思わないし、言わないよ」
「そんな事言って、本当は色んな人に言っているに決まっています。例えば柚鈴先輩とか!」
「そんなことは……」
あるかもしれない。柚鈴にだったら。
「ところでさやちゃん、その服装は?」
制服ではない服装。それはまるでアイドルの衣装のようで、そんな服装のさやちゃんは……。
「
「正解」
「じゃあ、こっちはどうかな~?」
背後からの聞き覚えはあるが、聞き慣れないその声に反応して振り返ると我が校の制服を身に纏った烏居彩香が立っていた。
「我ながらまだまだいけるよね~」
「じゃあ、さやちゃんがお姉ちゃんの代わりに『rainbow』に入っちゃおうかなぁ」
「じゃあ、さいちゃんは、さやちゃんの代わりに二度目の高校生楽しんじゃお~っと」
「どうして、烏居彩香さんがここに?」
驚きはしたものの、さやちゃんの姉と考えれば納得できてしまい一人冷静になった俺はアイドルであるはずの彩香さんに対して普通に会話をしていた。
「今日は敵情視察だよ。体育祭でダンスバトルをする
パチンッという擬音が出てきそうなほどのウインクをした彩香さんは更にこう続けた。
「それと~ これを渡すためにさやちゃんに海パイセンの所まで案内してもらっていたんだぁ~ はい、渡したからナナちゃんに届けてね」
「重っ! これ、何ですか?」
「サインだよ。和水プロダクションに所属するアイドルの。さいちゃんが声を掛けられるアイドルちゃん、アイドルくんだけだから……全員分?」
詳しくはないが和水プロダクションと言えば数年前の時点で330人は所属していたはずでその全員分のサインが書かれた色紙だと考えれば両手で持っていても辛いくらいの重さになっているのも納得出来た。
「お姉ちゃん、そろそろ議事録の時間だから」
「もうそんな時間? そいじゃあ、海パイセンまったね~」
嵐のようにやって来て、嵐のように去っていく烏居姉妹を見送った俺は六月に入ったばかりだというのに一ヶ月分の疲れを感じた気がした。
生徒会議事録
本当に、本当に頂いちゃって良いんですか? 和水プロダクションのアイドル全員分のサインなんて国宝級ですよ。 七海
林華先輩のサインもしっかり入っていたね。 美沙
彩香さんが七海に渡すために持ってきたらしいから気にせず受け取って良いと思うぞ。 芹沢
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