だいり

「やぁ、お揃いのようだね」

 千景先輩が指定した時刻に大学の正門へやって来た俺たちを昨年の九月まで生徒会副会長を務めていた最上為奈先輩は今までと変わらず嫌味の無い爽やかな笑顔で出迎えてくれた。

「為奈先輩お久しぶりです」

「海くん、それに皆も元気そうで何よりだ」

「ところで、千景先輩は? 昨日までは連絡が取れていたのですが、今朝になってから連絡が取れなくなっていて」

「姉さまとも今朝から連絡が取れなくなっているのですが、為奈先輩何かご存知でしょうか?」

 俺と笑舞がそう問いかけると為奈先輩の表情が誤魔化しきれないほどに曇った。

「千景から誘っておいて誠に申し訳が無いのだけれど、うちの姫様は体調を崩してしまってね」

「大丈夫なんですか?」

「心配には及ばない。原因はただの寝不足だから」

「寝不足ですか?」

「海くんたちにも覚えがあると思うけれど、うちの姫様は昔からイベントごとの前日は眠れないタイプでね。今回も例に漏れず眠れなかったみたいだけれど、いつもより期間が長かった」

「どれくらいの期間ですか?」

「確か、月曜の夜からだったと記憶しているよ」

 月曜の夜。つまり、俺が千景先輩に返事をしてから今日に至るまで毎日だった。

「ボクが見てきた中でも一番のはしゃぎぶりだったよ。恐らく風和がその様子を録画しているはずだから見せてもらうと良い。きっと、みんなが敬う完璧超人先本千景はそこに映っていないはずだから。少し話がずれたけれど、そういうことでうちの姫様には風和の監視下で自宅療養してもらっている。千景に会いに来てくれた皆には何とお詫びをすればいいか」

「お詫びなんてしなくて大丈夫ですよ」

 俺の言葉に美沙や明日香も頷いて同意していた。

「優しいね。君たちは」

 為奈先輩はそう言うと、千景先輩を真似るようにコホンと咳払いをして気持ちを切り替えた。

「それじゃあ、千景に代わってボクがキャンパスを案内させていただこう」

 いつも通りの雰囲気でそう告げた為奈先輩でしたが、先頭に立って率いるという経験は浅いようで普段よりわずかに身体に力が入っているように見受けられました。




千景 「返信が遅れてしまい申し訳ありません」

海  「気にしないで下さい」

海  「事情は為奈先輩から聞きました」

千景 「お恥ずかしい限りだよ」

海  「珍しいですよね」

千景 「本当に。自分でも驚いた」

千景 「大学生にもなって」

千景 「はしゃいで自己管理を怠るなんて」

海  「千景先輩にも」

海  「そんな可愛らしい一面があるんですね」

海  「なんて、失礼な事言ってすいません」

千景 「気にする事は無いよ」

千景 「事実だから」

千景 「本当は、這ってでも行くつもりだったけれど」

海  「風和先輩に止められたんですね?」

千景 「正解」

千景 「この埋め合わせはいずれまた」

海  「そんな、大丈夫ですよ!」

海  「でも、楽しみにしています」

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