ふたりだけのほわいとでー
『明日の午前十一時に羽流駅に来られますか?』
颯さんからこのようなメッセージが届いたのは昨晩のことでした。
昨晩の内に行ける旨を伝えたワタシは待ち合わせ時間よりも三十分早くワタシの家の最寄り駅である羽流駅へ向かいました。
「居た」
羽流駅の待ち合わせスポットとされている大きな羽のモニュメントの前で颯さんは数秒に一度の感覚で時計を確認しながら立っていました。
「待ち合わせ時間まであと三十分はありますが、お待たせしてしまいましたか?」
「え、笑舞さん! お、オレは今来たところ」
「嘘ですね。颯さんの家の最寄り駅から来る列車はこの時間だと二十分前に到着してからこの駅には停まらないはずです」
「笑舞さんって意外と鉄道オタクだったりする?」
「いえ、ただ記憶していただけです」
「そうだよね」
颯さんは何故か安心したような表情を見せて微笑みました。
「ところで、ワタシに何か用事でも?」
「うん、大した用事ではなくて申し訳が無いけれど……。これをどうしても今日渡したくて」
そう言うと颯さんはワタシが颯さんを見つけてから……おそらく家を出てからここへ来るまでずっと両手で大事そうに持っていた紙袋をワタシに手渡してくれました。
「これは?」
「バレンタインデーのお返し。お口に合うかわからないけれど」
「中を見ても良いかしら?」
「手作りだから自信は無いけど」
手作りというだけでも驚きましたが、ワタシが最も驚いたのはワタシには到底真似が出来ないほど可愛らしいラッピングでした。
「ラッピングも颯さんが?」
「男のくせにこんな可愛らしいラッピングが得意なんて引くよな?」
「いえ、むしろ尊敬します。恥ずかしながらワタシはラッピングセンスが無いものですから」
「そうなんだ。意外だね」
「でも、わざわざこれを届けるためにここまで?」
「本当は家に届けて驚かせたかったけど、笑舞さんの家は知らないから」
「昨日も、そして今も驚いています。本当に嬉しいです。ありがとうございます」
その言葉は何も考えずともワタシの口からスラスラと出てきました。それはもう、言い過ぎるくらいには……。
「もしかして、もうお帰りになるのですか?」
「うん、用事は済んだから」
「もし、この後の予定が無いのであればご一緒にお茶でもしませんか? 折角のお休みなので」
今日のワタシはどうも口の滑りが良いようで普段は飲みこんでいる言葉まで口にしていました。
「え? 良いの?」
「は、はい。颯さんさえ良ければ」
そう言ったところまでは良かったのですが、普段外を出歩く機会の無いワタシがお茶を出来る場所なんて知るはずもなく、ワタシはうっかり……あくまでもうっかり颯さんを自宅へ招待してしまいました。
颯 「今日はありがとう」
颯 「まさか家に招待してくれるとは思わなかった」
笑舞 「自分でも自分の行動力に驚いています」
笑舞 「ところで、あのチョコクッキーは本当にワタシ宛ですか?」
颯 「そうだけど、どうして?」
笑舞 「柚鈴先輩は颯さんから」
笑舞 「チョコ」
笑舞 「を頂いたと言っていたので」
颯 「それは、一番思いを伝えたい人だから」
颯 「あぁ! 今の無し」
颯 「消せない!」
颯 「あれ? 笑舞さん?」
颯 「見ているのに返事が来ない」
颯 「おーい」
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