ひきとり
「まさか、今になって見つかるとは思わんかったわ。しかも十九個全部」
土曜日から本格的に行われる引っ越し作業を前にほぼ空き教室と化した生徒会室へ桜居阿須那先輩が現在芸能活動で忙しい草木林華先輩に代わり、数日前に発見された林華先輩のお財布を回収するためにやって来ていました。
「どの財布も名前が書いてあるので間違いないとは思いますが、念のため確認して頂けますか?」
「懐かしいわ。ウチも役員時代はこうやって確認してもらっていたわ」
阿須那先輩は役員時代を思い出しながら手際よく十九個の財布を確認しました。
「間違いなく林華の財布で間違いないわ」
「それでは、この書類に受け取りの署名をお願いします」
「十九個やから、十九枚書けばええんか?」
「一枚で十分ですよ。お忙しいのにわざわざ学校まで取りに来て頂いているので」
「冗談のつもりやったんやけど、気を使ってくれてありがとう」
阿須那先輩はスラスラと署名を済ませると、会長から受け取った十九個の財布のうち、六個の財布から五百円玉を一枚ずつ取り出して会長に渡しました。
「これは、林華からの謝礼や。一人五百円ずつやからネコババしたらあかんよ」
「阿須那先輩、流石にお金は受け取れませんよ」
「ウチからやのうて林華からや。こっそり受け取っとき」
「だとしてもですね」
「もう、今の生徒会長は頭かったいなぁ。美沙ちゃんやったけ? これは君に渡しとくわ。君は柔軟そうやし」
「はい、ありがとうございます」
頑なに謝礼を受け取ろうとしない会長とは違って美沙先輩は笑顔で謝礼を受け取りました。
「ほな、ウチは帰るわ」
そう言って阿須那先輩は満足そうに帰っていきました。
生徒会議事録
本当に海は受け取らないの? 美沙
本人が要らないと言っているのだから渡す必要は無いわ。 明日香
そんなこと言いながら海君の財布に五百円玉入れてあげていたアッスー見ちゃったよ! 柚鈴
明日香の優しさはありがたいけど、勝手に人の財布開けるなよ。 芹沢
海さんのお財布、あからさまに机の上に置いてありましたが……。 小雨
お二人とも素直ではないですから。 笑舞
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