ぶかつどうしんせつとどけⅤ

「こんにちは」

 一ヶ月ぶりに部活動新設届を持ってきた関川紗綾先輩はいつにも増して真剣な眼差しで生徒会室へやって来ました。

「新設届もこれで五枚目か」

「確か『バラエティ部』から始まって『帰宅部』に『雑談部』先月は『家事部』だったよね?」

「紗綾、今回は何部を申請するつもりなのかしら?」

 誰一人として言葉にはしていませんが、生徒会役員としては『さぁ、やってみよう!』よりも『部活動新設届』の方が毎月の楽しみになっていました。

「みんな『さぁ、やってみよう!』と同じくらい期待してくれているところ申し訳ないけど、今回で『部活動新設届』は最後にしようと思っているの」

「よく分からないが、とにかく本気なのは伝わった。新設届を見せてくれ」

「はい」

 紗綾先輩は卒業証書を授与するようにして部活動新設届を丁寧に会長へ渡しました。

「今回の部活は『グランピング部』か」

「流行に乗って来たね」

「笑舞、グランピングって何?」

「ワタシもあまり詳しくはないけれど、グランピングというのはGlamorousグラマラスCampingキャンピングを組み合わせた言葉で直訳すると『魅力的なキャンプ』という意味よ。普通のキャンプとの大きな違いはテントの設営や食事の準備を自らしなくて良いというところだったと記憶しているわ」

 そう説明をしたワタシですが、テレビで見ただけの知識なのでそれが正しい情報であると断言はできませんでした。

「面白そう! 承認で良いと思うよ!」

「美沙も今までよりはまともだと思うけど、確かアウトドア同好会があったはずだよね? 活動内容が少し似てしまわない?」

「それに、テントの設営や食事の準備をしないで活動を行うのは難しいと思うのだけど」

「大丈夫」

 紗綾先輩は顔色一つ変えずにそう答えました。

「まず、アウトドア同好会に関してだけど同好会の会員と協議して現在のアウトドア同好会の会員生徒全員グランピング部に所属してもらうことになりました。明日香の言っていた件に関してはこれを見て」

 明日香先輩はそう言うと、明才高等学校の最新パンフレットを机の上に広げて四月から生徒会室の移設先となる校舎別館を指差しました。

「ここを見て。校舎別館には夏休みや冬休みに体育会系の部活動が合宿を出来るように校舎とは別にログハウスが三十棟くらい建てられているの。そこの一棟をグランピング部の部室として貸してもらえれば、食事は学食でテイクアウトをすれば活動が可能だと思うのだけど」

「ログハウスを部室に……その発想は無かった。明日香、ログハウスも生徒会委が管理することになっているよな?」

「使用許可の手続きは生徒会が行う予定になっているから部室使用も生徒会で決めても良いと思うけれど」

 流石の明日香先輩も想定外のことで確実な答えを出すことが出来ず、小雨先生に視線を向けて助けを求めていました。

「ログハウスに関しても使用の許可に関しては生徒会に一任しているので皆さんで決めて頂いて構いませんよ」

「それなら……」

「ちょっと待ってください」

 会長が早速今回で五枚目の部活動新設届を承認するかワタシたちに問いかけようとすると、ある人物が会長の手元にあった部活動新設届を手に取りました。

 その人物は、

「紗綾? どうして、自分で持ってきた新設届を取り下げるの?」

「いやぁ~ あはは~ 今回は本気でやってみたいって思った部活だったから絶対に承認されるようにって頑張ったつもりだったけど、最後の最後で怖くなっちゃった」

 ほぼ間違いなく全員が満場一致で承認するとワタシは思いましたが、紗綾先輩はもし承認されなかったときのことを考えると怖くなってしまったようで、手に持った部活動新設届を胸元で握りしめていました。

「最後にもう一押しだけ。良いですか?」

「あぁ」

「みんなでグランピングを体験しましょう。承認はそれから決めてください」

 その瞳はいつになく真面目で、真剣で、まっすぐで、とても『さぁ、やってみよう!』でとんでもないことを起こしている人物だとは思えませんでした。



生徒会議事録

 グランピング楽しみだな! 柚鈴

 ナナも初めてなので楽しみです。 七海

 ワタシも楽しみです。 笑舞

 ログハウスの使用許可書は俺の名前で提出するから、ダブルチェックは美沙と明日香にお願いしても良いか? 芹沢

 了解したよ。 美沙

 書類の会長欄の会長の部分を庶務に書き換えて私の印を押せば良いのね? 明日香

 それでお願いします。 小雨

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