ゆずりのしごと
「今日もやっているな」
シンと静まり返った生徒会室の中にかすかに聞こえる吹奏楽部が奏でる楽器の音色に対し、会長はとても嬉しそうな表情を見せながら呟きました。
「この間の入部希望者が正式に入部したらしいから今までよりも厚みのある音になったね」
「ナナのクラスメイトの子は吹奏楽部に入部してからすごく生き生きとしています」
「最近めっきり投書がされなくなった目安箱にも吹奏楽部と思われる生徒から生徒会宛てに感謝のメッセージが入っていました」
「そういえば、吹奏楽部の吹石部長が来年度も吹奏楽部は引き続き継続したいと要望があったわ。誰も異論が無いようなら私の方で話を進めたいのだけれど構わないかしら」
明日香先輩の発言にワタシたち役員は迷うことなく首を縦に振りました。ただ、一人を除いて。
「なぁぁぁぁぁ!」
「柚鈴さん? 異論があるのかしら?」
「もちろん異論はないよ! 異論はないけど! 来年度の部活動費の予算を組み直さなくちゃいけなくなったから!」
「そうか、数週間後には各部の部長と来年度の予算会議があるからな。柚鈴、大変だと思うけど頑張ってくれるか?」
「もちろんだよ! ワタシを誰だと思っているのさ! 生徒会会計だよ!」
数字に強いだけあってやる気に満ち溢れていた柚鈴先輩でしたが……それから数分後。
「もうやだ!」
「ユズリン、始めたばかりなのに投げ出さないでよぉ」
小さな子供に語りかけるようにそう告げた美沙先輩は柚鈴先輩によって文字通り投げ出された予算書を手に取ると、目を丸くして驚きました。
「ユズリン、これって?」
「出来たよぉ! あとは皆で確認してぇ!」
わずか数分で過去の生徒会会計を務めた役員がひと月を費やして作る予算書を作り出してしまった柚鈴先輩は電池が切れたように机の上に突っ伏してしまいました。
生徒会議事録
確認した。予算書はこれで行こう。柚鈴お疲れ様。 芹沢
美沙も確認したよ。流石ユズリン。上出来だね。 美沙
海のチェックでは不安だったので私も確認しました。私が文句を付けられるようなところは見つかりませんでした。流石です。 明日香
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます