たいはい

笑舞  「着きました」


 会長の自宅前に着いたワタシは生徒会役員で使っているグループメッセージサービスにメッセージを送信しました。

「いらっしゃーい!」

 メッセージの送信から僅か数秒後、軽快な足音と共に柚鈴先輩が玄関ドアを開いて飛び出してきました。

「柚鈴先輩、おはようございます」

「おはよう! 寒かったでしょ! 中は温かいよ! どうぞ入って!」

「お邪魔します」

 何故、家の家主ではなく柚鈴先輩が出迎えてくれたのか、ワタシは少し疑問を抱きましたが、その答えはすぐに出ました。

「あ、明日香先輩落ち着いて下さい」

「申し訳ないけれど、七海さんは口を出さないで貰えるかしら」

「笑舞、俺のことをかばってくれる必要はない。今回のことは俺に全ての非がある」

 リビングに入ったワタシの視界に映ったのは今まで見たことが無いほどの怒りを抱いている明日香先輩と明日香先輩の目の前で正座をしている会長そして、膝を小刻みに震わせながらも涙目で二人の間に立つ笑舞の姿でした。

「何故こんなことに」

「ユズリンは毎回二人が勝負していたのは知っているよね?」

「はい。確か前回の試験の点数対決では会長が僅差で勝利したと聞いています」

「そう、前回までの勝負で二人の勝敗は

 二勝二敗……ワタシはその言葉に引っかかりました。

「美沙先輩、試験は今回を除けば三回。正しくは明日香先輩が二勝一敗なのでは?」

「二人がした勝負はもう一つあったはずだよ。そしてそれは海が勝利した」

「生徒会選挙だよね!」

「なるほど。それでお二人の勝負は現在引き分け、今回の試験で勝負が決まるはずだったという事ですね?」

「その通り。でも、今回の勝利は明日香の望む勝利ではなかった。その結果がこれ」

 美沙先輩の視線の先にはナナと会長を睨みつける明日香先輩の姿がありました。

「明日香、今回は俺の大敗だ。どんな理由があってもその事実は揺るがない」

「本気ではない海に勝っても嬉しくはない!」

 そう叫んだ明日香先輩は会長の家を飛び出してしまいました。

「明日香先輩!」

「美沙も行くね。ユズリンと笑舞ちゃんはゆっくりしていて」

 美沙先輩はそう言って明日香先輩とナナの後を追いかけていきましたが、ワタシも柚鈴先輩も会長にかける言葉が見つからないまま時間だけが過ぎていきました。




笑舞  「美沙先輩、お二人の様子は?」

美沙  「心配かけちゃったね」

美沙  「こうなることは予想できたからやめようって話していたけど」

美沙  「美沙が言っちゃったから悪かったのかな」

美沙  「明日はバレンタインデーなのに」

笑舞  「美沙先輩は悪くありません」

笑舞  「なんて、ワタシが言うことではありませんが」

明日香 「ねぇ」

海   「なぁ」

明日香 「わざとでしょ」

海   「わざとだろ」

美沙  「はて?」

笑舞  「一体何のことでしょう?」

七海  「海先輩と明日香先輩仲直りしたんですね」

七海  「良かったです」

柚鈴  「良き、良き!」

海   「仲直りはしていないけど」

明日香 「決着は近いうちにつけることになりました」

海   「今日は申し訳なかった」

明日香 「大人気の無い行動、発言を心から反省しています」

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