すいそうがくぶ
昼休みに入ってすぐ、俺が生徒会室へ向かって歩いているとトランペットの音色が聴こえてきた。
普段なら気にも留めずに生徒会室へ向かうところだったのだが、今日は何となくその音色が気になってしまい俺の足は音楽室へと向かって進んでいた。
「失礼します」
音楽室へ入ると吹奏楽部の部長を務める吹石美園さんがトランペット片手に大きな溜息をついて窓の外に広がる銀世界を見つめていた。
「か、会長! すいません。無断で音楽室を使ってしまって」
「俺の方こそ練習中にいきなり入って申し訳ない。トランペットの音に惹かれてつい……」
「音に……ですか」
息を吐くようにして呟いた吹石さんの表情は先ほど聴こえた音に似て寂しげだった。
「他の部員は休み時間に練習しに来ないのか?」
「会長は吹奏楽部の部員数をご存知ですか?」
恥ずかしい話、部活動の部員数までは正確に覚えてはいなかった。ただ、明才高等学校の吹奏楽部は他校に比べて異様に少ないことだけは記憶の片隅に残っていた。
「十三人くらいか?」
「五人です。しかも、私以外は他の部活動との兼部です」
吹石さんはスラスラと、しかし、少し寂し気にそう告げた。
「今年は目立った活動も無いですし、一年生の部員も居ないので私としては今年度限りで廃部も考えています」
「部員はそれに関して納得しているのか?」
「どうでしょうか? 私以外の部員が集まる機会はほとんどないので。ただ、最後に一度くらいは部員全員での合奏がしたかったです」
「廃部にする、しないは別として部員全員で集まって合奏してみれば良いじゃないか」
叶わぬ夢を語るように告げる吹石さんに俺はとても軽々しくそう告げた。
「三月一日の卒業式に吹奏楽部に入退場時の演奏をお願いしたい」
「会長、それは流石に……」
「流石に難しいよな。練習時間も短いし」
「練習時間はそこまで問題では無いのですが、部員が全員集まらない事には……」
「ほう、つまり部員の都合さえつけば大丈夫という事だな?」
吹石さんの瞳を見つめると悪そうな顔で微笑む俺の顔がくっきりと映っていた。
「都合がつけば多分……」
「わかった。何とかしてみせる。だから、その時は……」
「絶対とは言えないですが……」
吹石さんはあまり俺を信じられないようだったが、俺は吹石さんのトランペットがこれ以上寂し気な音色を奏でないために吹奏楽部の部員四名に直談判しに向かった。
生徒会議事録
海先輩、珍しく来ませんでしたね。 七海
連絡したら校内にはまだいるらしいけど。 明日香
昼休みからやけに慌ただしく動いているみたいだったけど、どうしたのかな? 美沙
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