おおゆきのひ
「すごい雪だな。ここまで来るのは大変だっただろ?」
窓越しに三十センチメートル先も見えないほどの大雪が降る外を眺めていた海は昼食準備中の私にそう問いかけてきました。
「私が来るときはまだそんなに降っていなかったから。でも、帰りまでこの調子なら少し困る」
「天気予報だと今日はずっとこんな感じみたいだからな。今日は泊っていけよ」
幼馴染という間柄とはいえ軽々しくそんなことを言ってしまうこの男が私はだ……嫌いだ。
そして、更にむかつくのはきっとこの男は私の立場が美沙でも、柚鈴でも、一年生組でも、同じことを軽々しく言ってしまえる男であるということだった。
「って、明日香? 今作っているのはお雑煮だったよな? 何でそんなに赤く染めあがっているのか教えてもらえるか?」
「心配しないで、着色料いれただけだから」
「いや、おかしいだろ。お雑煮に着色料なんて使わないし、明日香が手に持っているドクロマークの付いた瓶はお雑煮には絶対に使わない調味料のはずだ!」
「大丈夫、辛さは正義」
「それはどこの世界の常識だよ!」
我ながら今日は入れすぎたかもしれないと反省しつつ、海にはこれくらいの罰を与えないとあの軽はずみな発言には釣り合わないだろうと適当な理由で自己完結させました。
「はい、召し上がれ」
「いや、食えるようなものじゃないだろ」
顔を最大限引きつらせながら真っ赤に染めあがったお雑煮を見つめた海は箸を取ると合唱をし、
「いただきます」
と絞り出すように呟いて、普通なら絶対に躊躇するであろう色と痛みを伴う刺激的な香り漂うお雑煮に箸を伸ばしました。
これは言い訳する余地もないほど私の嫌がらせでしかありませんがそれでも絶対に出されたものは口にする海の意思が私はだ……嫌いではありませんでした。
「はぁ、文句くらいつければいいのに」
幾度となく辛いつ呟きながらもお雑煮を喰らう海を見ていると自分の所為ではありながらも自然とそんな言葉が出てしまいました。
「こんなことをして不味いなら文句をつけるけど、明日香の作る料理は全部美味しいから文句なんて言える訳無いだろ」
怒ればいいのに、気が済むまで罵倒すればいいのに優しい言葉をかけ続ける海が私は本当に、本当に、心の底からだ……嫌いでした。
龍鵞峯 「ターゲット確認できました」
青山 「では、予定通りに」
龍鵞峯 「了解」
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