かいとみさとあすかとゆずり

「年末を友達同士で過ごすのって初めてかも」

 美沙は私の持ってきたおせんべいをかじりながらそう呟きました。

「そう言われてみれば、私も初めて」

 そもそも、海以外の学校関係者と冬休みに一緒に過ごす時間自体が私にとって人生で初めて体験する出来事でした。

「まぁ、年末まで誰かと遊ぶなんてことはしないからな」

「もしかして、美沙たちが押しかけて来たのは迷惑だったかな?」

「むしろありがたいよ。今までは一人でこの家に居ることが楽に感じられていたけど、最近は一人でいると孤独を感じるようになったからさ」

 冗談半分で言っているつもりなのだとは思いましたが、私も美沙も海とは十年以上の付き合いなのでその目を見ただけでその言葉が本心であることはわかってしまいました。

「話は変わるけど、家を出るときにパパが海のこと気にしていたよ」

「俺の事を? 俺、美沙のお父さんのこと知らないけど」

「ちなみに、美沙のお父さんはなんて言っていたの?」

「えっとね。『今日は、芹沢くんの家に泊まるのか? この間も泊って行ったそうじゃないか。母さんに聞いたが、彼は今一人で暮らしているそうじゃないか。なんだ、その大丈夫なのか?』だったかな? 明日香もいるから二人きりじゃないって言ったら渋々許可してくれたけど」

 美沙のその発言に対して私と海は顔を見合わせて苦笑しました。

「それって、俺の事を気にしていた訳じゃなくて、俺が美沙と間違いを起こさないか気にしていただけじゃないのか?」

「海は責任感が強い人だからそんな事はしないでしょ? 美沙だって好きでもない相手と間違いを起こすつもりは無いし」

「お、おう。俺も同じ気持ちではあるが、何か心にグサリとくるな」

 美沙のその発言は今の会話にはほとんど関わりの無い私の胸にも何故だか大きな針が刺さったかのようにグサリときました。

「今の話は置いておくとして、二人とも俺の家に民宿感覚で泊まりに来るのは構わないが、突然来られても何も用意していないぞ」

「大丈夫、期待していないから」

「だからと言って美沙たちが何かを準備してきたわけではないけどね」

「なるほど。それは遠回しにこれから買い出しに行こうという提案だな」

「……」

「……」

 私も美沙も海に返答はしませんでした。その理由は私たちが今座っている場所に関係がありました。

「言いたいことはわかる。だから平和的な解決策として全員で買い出しに出掛けよう。このコタツを抜け出して」

「海はせーので三人同時にこのコタツから抜け出せると思う?」

「美沙は絶対に無理だと思うな。美沙なら抜け出した人に買い出しに行ってもらうと思う」

「よぉうし、それなら……」

 海はそう言うと右手の拳を私たちにちらつかせました。

「私は今度こそ絶対に負けない」

「来年に持ち越そうと思っていた運をこの勝負に全集中させるよ」

 私たちは互いに拳を見せつけ合い、その拳を大きく振り上げました。すると、戦いのゴングを鳴らすかのように私たち三人のスマートフォンが同時に鳴り出しました。

「柚鈴からだ」

「なになに? 『お餅をおすそ分けするから海君の家に集合!』」

「美沙、良い事思いついた」

 美沙がそう言った瞬間、私と海も恐らく同じことを思いつきました。




美沙  「美沙と明日香は海の家に居るよ」

柚鈴  「なんと!」

明日香 「私たちは海の家で年越しをするけど、柚鈴さんも一緒にどう?」

柚鈴  「何それ楽しそう! 良いの!」

海   「俺は構わないが、一つだけお願いを頼まれてくれるか?」

柚鈴  「もちろん!」

海   「金は後で支払うから鍋の材料を適当に見繕ってきてくれ」

美沙  「食べられるものを食べきれる量でお願いね」

明日香 「お手数だけどお願いします」

柚鈴  「任せて! ダッシュで向かうよ!」

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