じこ

 いつものように購買に寄り道をしてから生徒会室へ向かうと、風和先輩の誕生日の為今日の生徒会活動を欠席した笑舞の代理で生徒会活動に参加してくれる幼馴染の春風明日香が俺の席に腕を組んで座っていた。

「明日香、そこ俺の席」

「ねぇ、私がここに座っている理由はわかる?」

 どうやら明日香は俺の話を聞くつもりは無いらしい。

「5・4・3・210。時間切れ。ここに座って」

 最後の方だけカウントダウンが早かったように感じたが、口答えをしたら無駄に怒られる予感がしたので俺はあえてそこには触れずに明日香が指差した床に座った。言うまでも無いが正座で。

「あれ何?」

 昨日美沙が言っていたので言われるような気はしていたが、明日香は昨日から生徒会室に加わった二つのソファベッドを指差して聞いて来た。

「あれは、ソファだよ」

 嘘は吐かなかったが、誤魔化した。

「あれ、ベッドになるやつじゃないの? 生徒会室に必要?」

「はい」

「は?」

 俺が答えてから明日香がそう返すまでの時間は一秒となかった。

「明日香が生徒会の活動に不要なものを生徒会室に置くなって言いたいのはよく分かる。でもこれは、生徒会の活動を苦に感じないようにと思って考えた事だ」

 俺は立ち上がり明日香にそう叫んだ。

 はっきり言ってソファベッドを設置するのにそんな大層な理由は無かったのだが、こうでも言わないと明日香が納得してくれる気がしなかった。嘘だとばれたら全ては台無しにはなるが。

「そんな理由が通じるはずないでしょ!」

 俺に対抗して立ち上がった明日香は俺を睨みながらそう言った。とはいえ明日香の身長は七海と同じくらいか少し高いレベルで俺の視点から見ると明日香が睨んで来てもそこまで恐ろしくは無かった。

「取りあえず座ってみろ。座ったらわかるから」

 俺は明日香の肩を押してソファベッドへと近づいた。

「やめて!」

 怒っているからなのか、顔を真っ赤に染めた明日香は自分の肩に置かれていた俺の両手を振り解いた。

 僅かではあるが明日香の身体に重心を乗せていた俺は両手を振り解かれたことでバランスを崩し、明日香の方へ倒れてしまった。

「ち、近い」

 鼻先同士がぶつかるか、ぶつからないかの距離に明日香の顔があり、明日香は恥ずかしそうに小さく呟いていた。

「ごめん。ワザとじゃない」

「そ、それくらい分かってる」

 明日香にどのような心境の変化があったのかはわからないが、この後の明日香はさっきまでの態度が嘘のようにソファベッドの設置を許可してくれたが、その日が終わるまで俺と明日香の目が合う事は無かった。



生徒会議事録

 明日香と何かあった? 美沙

 全然目を合わせていなかったよね! 柚鈴

 喧嘩をしているようには見えませんでしたが。 七海

 何もない。本当に。 芹沢

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