さぁ、やってみよう!#2
「あっ!」
生徒会室の扉を開けて一歩進み、二歩進み、普段なら無意識に躓いてしまっているらしいワタシですが、今日は自分自身でも気が付くほど盛大に転びました。
「笑舞ちゃん!」
ワタシが床に倒れる前にいち早く気が付いた柚鈴先輩が抱き付くようにしてワタシの身体を支えてくれました。
「柚鈴先輩、ありがとうございます。助かりました」
「怪我はなさそうだね! 良かった!」
「今日はいつも以上に盛大に躓いたみたいだけど、大丈夫か? もし体調が悪いようなら無理はしなくて良いからな」
柚鈴先輩も会長もワタシの事を気にかけてくれているようで心配そうな視線でワタシの事を見つめていました。
「ご心配をかけてしまい申し訳ありません。悩み事をしていたら注意力散漫になってしまいました」
「そうか。気をつけろよ」
「笑舞ちゃん、悩んでいることがあれば遠慮しないで美沙たちに相談して良いからね」
「わかりました。では早速先輩方に相談したいことがあるのですが」
流石に言った直後に相談されるとは想定していなかったようで、美沙先輩は目を見開いて驚いていました。
「悩みは早いうちに解決しておいた方が良いからな。どんな悩みだ?」
「はい、これについてなのですが……」
ワタシは机の上に報道部の副部長で定期的にワタシに情報を提供してくれる龍鵞峯一先輩から渡された『#2』と印刷されたDVDディスクを置きました。
「笑舞、これって?」
「龍鵞峯先輩に渡されたの」
先輩方とナナは『DVDディスク』と『#2』そしてワタシが言った『龍鵞峯先輩』の三つのキーワードだけでこのDVDディスクの内容が予想できたらしく苦笑しました。
「俺たちは暇だと思われているのかね?」
会長は首をかしげながらそう呟くとDVDディスクを手に取ってひと月ぶりに起動したDVDプレイヤーに入れました。
「観るの?」
「観ない訳にもいかないだろ」
会長は自分の席に戻りながらそう言ってリモコンの再生ボタンを押しました。
『この番組は、バラエティ番組の制作を企画した報道部制作の試験動画です』
前回同様に龍鵞峯先輩と思われる声と共に画面には今の言葉と全く同じテロップが映し出されていました。
『さて、今回も始まりました。『紗綾のさぁ、やってみよう!』この番組は私、関川紗綾が出されたお題に即興でチャレンジするとてもデンジャーな番組です。大好評という事で今回は第二弾です。いえ~い!』
「どこに好評で第二弾が決まったのかな?」
「後ろに前回の卵焼き? があるので、もしかしてこれって二本撮りじゃないですか?」
ナナがそう言うので画面をよく見てみると、関川先輩の後ろに先月観たDVDで作っていた卵焼きになる予定だった黒い塊が置かれていました。
「これは間違いなく二本撮りだな」
『今回のお題も……料理! さぁ、やってみよう!』
「やってみよう!」
「このフレーズ、柚鈴先輩だけにははまっていますよね」
ワタシがそう言うと一人だけ楽しそうに画面を見つめている柚鈴先輩以外は小さく二度ほど頷きました。
『今回作るのはピザです!』
「前回よりハードル上がっているじゃないか!」
『生地は料理部に準備して頂きました』
『私、一度で良いからピザの生地を回してみたいと思っていたので楽しみです。さぁ、やってみよう!』
そう言うと画面の中の関川先輩は先ほどのテロップにあったように料理部が準備したピザ生地を手に取って頭の上で回し始めました。
『よっ、ほっ』
「紗綾ちゃんピザの生地を回すのは初めてなんだよね?」
「夢だったって言っていたから初めてのはずだが」
「すごく綺麗に広がっているよ!」
ピザ作りには詳しくは無いですが、素人目から見ても関川先輩の生地回しは熟練されているように見えました。ただ、一つ気になるのは……。
「関川先輩は生地をどこまで広げるつもりなのでしょうか?」
「なんか、回し過ぎて大きくなりすぎているような気がするよね」
『ねぇ、これってどうやって止めるの?』
「止め方がわからないみたいだな」
そう呟いた会長は苦笑していました。
『スタッフ総出で止めました』
『次はトッピングをして行きたいと思います!』
「随分と生地が小さくなったような気がするのだが」
「明らかに小さくなっていますね」
誰も気づいてはいませんでしたが、このカットの間にオープニングからずっと置いてあった卵焼きになれなかった黒い塊が片付けられていました。
『ピザなのでトッピングはチーズとトマトソースたっぷりにしたいと思います』
「これを見ていたらピザが食べたくなってくるな」
「生徒会室にピザ頼もうか!」
「柚鈴先輩、流石にそれは怒られると思いますよ」
「それにしても、トッピングの量が多過ぎるような気がするのはワタシだけですか?」
「美沙も笑舞ちゃんと同じ気持ちだよ」
ワタシたちが話している間に恐らく関川先輩が回していた物とは別のピザ生地にはこれでもかと言わんばかりのトマトソースが流し込まれ、その上に山のようにチーズが盛り付けられていました。
『トッピングが完成したので、これから焼いていこうと思います』
「家庭科室にピザ用の窯なんてあったのか」
「美沙も知らなかった」
『十数分後 諸事情によりここからは手持ちカメラでの撮影となります』
「何があった?」
前回のテロップ通り、あの黒い塊をスタッフであるカメラマンが美味しく頂いたことが原因でないことを祈りながらワタシは映像の続きを観ました。
『完成です!』
関川先輩が笑顔でお出ししてきたピザは何となく前回の卵焼きに似てはいましたが辛うじてピザの形を保っていました。
「黒に赤色って格好良い!」
「俺には溶岩とマグマにしか見えないのだが」
「奇遇ですね海先輩。ナナも同じことを思っていました」
『そうだ! 明日香に試食してもらおうかな。明日香は辛い物が好きだから、タバスコもトッピングして。あっ……』
「『あっ』って言わなかったか? 言ったよな?」
「明らかに大量のタバスコがピザにかかりましたね」
『今回も無事に完成してスタッフさんにも大いに喜んでいただきました。余ったピザはお友達の明日香ちゃんにプレゼントして来ようと思います!』
明らかに見せてはいけない所が大幅にカットされ、番組は最後の締めに入っていました。
「明日香、逃げろぉ!」
「海先輩、もう手遅れだと思います」
『ここまで楽しくやって来ました『紗綾のさぁ、やってみよう』第二回目もそろそろお別れのお時間です。次回もさぁ、やってみよう!』
「やってみよう!」
最後まで番組を楽しく見ていたのは柚鈴先輩だけで、映像にツッコミをいれていたワタシたちは番組が終わったことにホッとして飲み物でのどを潤しました。
『おまけのコーナー』
「美沙たちは、もうお腹いっぱいだよ」
『明日香ちゃん、ピザを作って来たから食べてくれないかな?』
『え? 紗綾の手料理?』
『私の手作りだよ』
『普通に怖いし、遠慮しておく』
『この番組は料理部とさぁ、やってみよう!制作委員会の提供でお送りしました』
この番組では苦笑しかしなかった柚鈴先輩を除いたワタシたちですが、このコーナーでワタシは失礼ながらお腹の底から笑いました。
生徒会議事録
次は何をやってくれるのかな! 柚鈴
あれをバラエティとして楽しめているのは柚鈴だけだろ。 芹沢
第二回にして制作委員会が設立されていましたね。 笑舞
多分、紗綾ちゃんのファンクラブの通称だろうね。 美沙
好評って、紗綾先輩のファンクラブの中でという事ですかね? 七海
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