あるばいと

 昨日とは打って変わって本日の生徒会室は役員全員が姿勢を正し、真面目モードでの活動開始となりました。

「それじゃあ、準備が整ったところで今月の役員会議を始めようと思う。美沙、今月の議題を」

「今月の議題は『アルバイトについて』です。先週全生徒に向けて行った匿名のアンケートをまとめたものを全員の手元に用意したからそれを基に会議を行っていきます」

「それぞれ事前に手元の資料に目を通してもらったと思うが、意見があれば挙手を頼む」

「はいっ!」

 会長が言い終えた直後に真っ直ぐ挙手をしたのは柚鈴先輩でした。

「柚鈴」

「はい! 今回のアンケートにワタシからお願いして『アルバイトで得た収入を部活動、同好会に使用していますか?』という項目を加えてもらいました! 資料を確認すると、5%ほどの回答者が使用していると回答しているようです!」

 柚鈴先輩の発言を聞いて資料の『アルバイトで得た収入を部活動、同好会に使用していますか?』という項目が記されたページを開きました。

「任意で部活動、同好会名を書いてもらったが、同好会はともかく部費を受けているはずの部活動も入っているみたいだな」

「なので、先ほど該当する部活動に配布している部費を確認しました! データ上では生徒会及び学校が定めた条件に基づいた配布額でしたが、該当の部活動に所属している回答者が記した理由によるとアルバイトを行う理由に『部費が足りないから』とあったので一度現地調査をする必要があるかと!」

「そうだな。必要があれば部費の増額を検討する必要がありそうだ。この件に関して小雨先生から意見を伺ってもよろしいでしょうか?」

「そうね」

 普段は教職員とは思えないほどだらけた姿で生徒会室に入り浸っている小雨先生ですが、今日は普段と違いブラックコーヒーを飲んでいるからか真面目な表情をしていました。

「学校側としては自身の生活と社会勉強のためにアルバイトを許可しているので、もしも部活動の活動費を補填するためにアルバイトをしているのであれば部活動費の増額対象になると思います」

「意見をしても良いでしょうか?」

 恐らく役員全員が気付いているもののあえて話題に挙げなかった項目について語る場面だと感じたワタシは挙手をしました。

「あぁ、構わない」

「ありがとうございます。この項目には部活動だけではなく同好会に所属している回答者からも『同好会の活動のためにアルバイトを行っている』という回答があります。先ほどの小雨先生の発言を受けるとこの回答者にはアルバイトの許可が出来ないように思えたのですが、小雨先生個人としてのご意見を伺ってもよろしいでしょうか?」

「そうですね。学校のルールとしては同好会には部活動費は出さないという事になっていますが、先ほども言ったように自身の生活と社会勉強のためにアルバイトを許可しているので私としては学校側が定めたルールに矛盾が生じていると恥ずかしながらたった今、気が付きました」

「ナナが勉強不足だと理解した上での質問なのですが、どうして同好会には活動費が出ないのでしょうか?」

 ナナの発言に恥ずかしながらワタシも同じ思いを抱いていました。

「申し訳ないが、俺もそれについてはわからないな」

「それは、美沙から説明するね。実は一昨年までは同好会活動は片手で数えられるほどしか活動していなかったらしいのだけど、去年の共学化を受けて一気にその活動が増え始めたの。でも、去年までは活動費が必要なほど大きな活動を行う同好会が無かったから生徒会は今まで通り同好会には活動費は配布しないという事になっていたの」

「なるほど、今年から部活動レベルで勢力的になった同好会は活動費が必要になって来たという訳か」

 その例として挙げられるのは、先月ワタシと会長で行ったことでも記憶にある落語同好会でした。

「会計としての意見を言わせてもらうと、生徒会が動かすことの出来る活動費からは全ての同好会に部活動と同じように部費を配布は出来ないよ!」

「部活動費が必要な同好会には申請書を提出してもらうのはどうでしょうか?」

「生徒会や教職員で本当に活動費が必要か精査する必要があるとは思うが、七海の意見はありだな」

「ユズリン的にはそれなら同好会に活動費は配布できそう?」

「部活動と同額は難しいけど、五割か多くても六割までなら!」

「ただ、学校の定めたルールがあるので可能であるとはいえ現状すぐには難しそうですね」

 ワタシがそう発言をすると、ワタシを含めた役員全員が生徒会室の中で唯一学校のルール変更を要求できる小雨先生に視線を向けました。

「ルールの変更を要求するために必要な判断材料はあるので職員会議で意見を出してみますが、場合によっては生徒会に預ける金額を増やすことにもなるかもしれない要求なのですぐには決まらないかもしれないですよ」

「こればかりは仕方のないことですが、同好会活動の為にアルバイトを行う生徒がいるのも確かなのでお願いします」

 会長は立ち上がると、小雨先生に向かって深々と頭を下げました。それを見たワタシたちもすぐさま立ち上がり、会長と同じように頭を下げました。

「私は期待されるほど大きな権限を持っていないので荷が重いのですが、皆さんにそこまでされた以上は期待に沿えるように頑張ります」

 自信が無さそうにそう告げた小雨先生でしたが、今のワタシたちにとっては希望の光に見えました。



生徒会議事録

 笑舞、申し訳ないが報道部には今回の会議で話した部費に関する内容は伏せておいてくれ。 芹沢

 同好会に所属している生徒をぬか喜びさせてしまう結果になってしまったら申し訳ないからね。 美沙

 かしこまりました。明才新聞にもその部分は伏せて会議内容を掲載します。 笑舞

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