けんか

「知らないよ! どうせまた俺の家じゃないか?」

 明才新聞に毎週掲載している生徒会の活動内容をまとめた原稿を報道部に提出していたワタシが活動開始時間から十分ほど遅れて生徒会室に入ると、会長がスマートフォンに向かって怒鳴っている所でした。

「会長、やけに怒っているようですが」

「美沙たちにはいつもと変わらない態度なんだけど、今日は朝からちょっと機嫌が悪いみたい」

 ワタシは昼休みに生徒会室で会長と個別の作業を行っていましたが、その様な雰囲気は感じ取ることが出来ませんでした。

「原因は何となくわかるけど」

 呆れるように微笑んだ美沙先輩は通話を終えて大きな溜息を吐きながら窓の外を眺めていた会長にそっと近づきました。

「笑舞ちゃんとナナちゃんが怖がっているよ」

「ごめん」

「謝る相手は美沙じゃないでしょ?」

「そうだな」

 美沙先輩に優しく注意された会長はワタシとナナの方を見つめて深く頭を下げました。

「怖がらせてしまって申し訳なかった」

「な、ナナはその、大丈夫です。にへぇ~」

「ワタシも気にしていないので」

 ナナがまんざらでもない顔をして喜んでいる理由はさっぱりわかりませんが、美沙先輩が言っていたほど怖がっていないことを態度で示しました。

「それで、昨日は明日香が何をしたの?」

「どうしてそう思う?」

「まぁ、海とは長い付き合いだし何となくわかるよ」

 会長と美沙先輩は再び窓の外を見つめながら話し始めました。

「別に大したことでは無いけどさ」

「お姉さんに行ってみなさい」

「昨日の夕飯がキムチ鍋だった。それだけ」

「なるほどね。それは怒るね」

 あまりにも会話の情報量が少なすぎて、ワタシは先ほどのナナの表情と同じくらい理解が出来ませんでした。

「まぁ、作ってもらって文句を言うのは間違っているけどさ。明日香の奴、ご飯作ってくれるのはありがたいけどすぐ辛くする癖があるから困るんだよ。昨日に関しては米まで辛くしやがって。辛すぎて一口でギブアップだよ」

「明日香は辛党だからね。明日香には美沙から言っておくから、帰ったらさっきの電話の態度についてちゃんと謝りなよ」

「わかったよ」

 生徒会の長女である美沙姉さまは会長の頭を撫でながら優しく微笑みました。



生徒会議事録

 海先輩は明日香先輩と一緒に暮らしている訳じゃないですよね? 七海

 そんな訳無いだろ。今の俺が事実上の一人暮らしだからしょっちゅう来ては家事をこなしてくれるんだよ。 芹沢

 海は料理以外なら生活能力あるのにね。 美沙

 料理苦手なのですね。意外です。 笑舞

 海君って完璧ではないけど何でも平均的にこなせそうだからね! 柚鈴

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