強く、強く
「強くおなり」
私を育ててくれた人は、よくそう言っていました。とても優しい声で。
私から見たその人はとても強い人だったので、私はその言葉をこう解釈していました。
「自分のように強くなりなさい」
だから私は、その人のようになろうとしました。
しかし、その強さに近づくたび、その人は悲しそうな顔をするのです。
私は思いました。
「もしかして、自分は間違っているのだろうか」
その人の言う強さと、僕が思っている強さは違うのではないか。
考えて、考えて、考えて一つの答えにたどり着きました。
「あの人は、自分を超えてほしいのだ」
きっとそうだ。模倣ではダメなのだ。もっと上を目指せ。そういうことなのだ。
それから私は、いっそう武技の鍛錬に没頭していきました。
その夜も、その人は私に言いました。
「強くおなり」
しかし、今回はその言葉に続きがありました。
「私のようにならないように」
その言葉を聞いて、頭を重たいもので殴られたような衝撃が走りました。
私は反論しました。
「だったら、強さとは何なのですか」
「あなたは強くなれと言う。私は強い人はあなたしか知らない」
「だから私はあなたのようになって、あなたを超えるために日々を費やしてきたのに」
私の語気はだんだん強くなっていき、最後には叫んでいました。
怒鳴りつける私に、その人はいつもの優しい声で告げました。
「私の言う強さとは……」
我に返った時、目の前にその人が倒れていました。血を流し、ピクリとも動きません。
何かが壊れる音が、頭の中で聞こえた気がしました。
その人だったものの前で立ち尽くしているうちに夜が明けました。
耳元で、あの優しい声が聞こえました。
「強くおなり」
そうして、私はいつもの鍛錬のための準備を始めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます