奇術師貴族
南高梅
おわりのはじまり
「危ない!」
その声が聞こえたときには既に手遅れだったと思う。
よもや、コンビニのイートインスペースでお昼ご飯を食べていたらそこにトラクターが突っ込んでくるなんて予想しないからだ。ここの近くには畑は無いのに。
窓際にあったイートインスペースにいた私は物量の暴力に押しつぶされる。
「ああ、いつか脱出マジックがやりたかったのにこんな回避不可能なものに巻き込まれてしまうなんて。」
これがきっと、私が最期に思った事。明日は高校生手品コンテストの本戦だったのに。夢半ばに死ぬとはなんてこと。
……さて、きっと私は死んだのだ。何故ここまで思考が続いてるのだろう。幽霊になった実感は無い。きっと幽霊になれば体は軽いだろうが、私の感覚にはまだ実感が伴っている。幽霊に感覚は無いなんて幻想だったのだろうか?
体は動かない。何かが私の上に覆いかぶさり、それが圧力をかけているのはわかるのだ。まさか、このまま意識も感覚もあるまま火葬されるの?そんなのまっぴらごめん。
真っ暗な視界、閉じている実感のある瞼。当然のように瞼は動かない。死とはこんなものなのだろうか。
ふと、体にかかっていた圧力が消える。瓦礫やトラクターがどかされたのだろうか?事故対応にしてはいやに早い。
「…様!お嬢様!意識はございますか!?」
へ?お嬢様?
「リーナ様の意識が戻られない!至急医者を呼んでくれ!」
いう事を聞かなかった瞼が突然開く。
「リーナ様がお目覚めになられた!よかった…!」
目の前には、まるでおとぎ話に出てくるような執事服の中年男性がいた。
そしてその彼は間違いなく私に話しかけている。
ふと自身の姿を見る。重そうなドレス。履きなれないはずなのに何故か違和感の無いヒールの靴。
「あの…リーナ様って、私の事を言っているんですか…?」
疑問が口をついて出てしまった。この声も私の知る声ではない。しかし、間違いく私の口から発された言葉だ。
「リーナ様は頭を打たれてしまったようだ!ご自身のお名前さえ忘れられてしまっている!」
男性は目の前にある大きな屋敷の方に向かって報告のように声を張り上げ続けている。
あれ、これって、最近のラノベやアニメでよく見る「異世界転生」ってやつでしょうか…?
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