第104話 過去の記憶 ー3

大地君とは話せないまま、どんどん季節が過ぎてしまい、冬になると同時に変な噂が校内に流れ始めた。


違うクラスの女の子である、『山本杏里』が、売春をしているという噂。


その子とはほとんど面識がないんだけど、大人しい性格で、いつも図書室で本を読んでいたのはなんとなく記憶にあった。


静香からその噂を聞いた時「ただの噂でしょ?誰かが嘘ついて流してるんじゃないの?」と、少し呆れながら答えていた。


静香も「やっぱりそう思うよね。もっと派手な子ならわかるけど、そんな事するような感じに見えないよね」と同意していた。


ただ、噂は大きくなってしまい、杏里ちゃんはたびたび生徒指導室へ呼ばれるように。


その後から、杏里ちゃんが休むたびに『妊娠した』とか『中絶した』とか、悪い噂ばかりが流れるようになっていた。


そんな噂も2週間も経てば、誰も気にしなくなっていたんだけど、杏里ちゃんはクラスで孤立してしまったようで、1年が終わると同時に、学校からいなくなっていた。



2年に進級してから少し経った頃、自宅に『野村』と名乗る男の子から電話がかかってきた。


「F組の野村だけど」と言われても、全然ピンとこないし、全くわからなかった。


『誰なんだろう?』と思いながら「はぁ…」としか言わないでいると、その子は突然「付き合ってくれない?」と言ってきた。


何の脈絡もなく出てきた言葉に「どこに?」と聞いたんだけど、野村君は「違うって。俺の彼女になるって事!」と言われた。


顔も知らない人と付き合う事なんてできないから、当然のように断ったんだけど、その子はしつこすぎるくらいしつこく「付き合って」と言ってきた。


「嫌です!無理です!」と言った後、電話を切ったんだけど、数日後から、周囲は私を見ながら小声で何かを話し始めているのに気が付いた。


静香が心配して「大丈夫?」と聞いてきたけど「何が?」としか言えなかった。


静香は口ごもってしまい、はっきりとは聞けなかったんだけど、日を追うごとに小声で話している声は、確実に広がりを見せていた。


陰でコソコソいう声に、少しイライラしていたある日、担任から「後で生徒指導室に来てくれ」と言われ、生徒指導室に向かった。


生徒指導の担当教師から、軽率で浅墓な行動はないか聞かれ、何のことかさっぱりわからず。


「園田がむやみやたらに異性と関係を持つって噂が流れてるんだが、心当たりはないか?」と聞かれたんだけど、全く心当たりがないし、男の子と付き合ったことすらない。


その事を教師に言うと、教師は納得したようで、すぐに帰された。


『なんなの?マジムカつく』


そう思いながら迎えた翌日。


この日は簿記のテストの申し込みがあったので、放課後の部活前に職員室に行くと、長蛇の列ができていた。


申し込み担当の先生も、こんなに人が殺到するとは思っていなかったようで、かなりのパニック状態に。


途中から数人の先生が手伝っていたけど、申込用紙が足りなくなったようで、担当の教師が印刷室に駆け込んでいた。


長蛇の列の最後尾に並んでいると、ケイスケ君が「凄い人だね」と言いながら私の後ろに。


話しながら並んでいると、ケイスケ君が「部活大丈夫?」と聞いてきた。


「申し込みで並んでるんだし、多分大丈夫でしょ」と言うと、ケイスケ君は「そりゃそうだよね。これがダメって言われたら、試験なんか受けられないもんね」と笑顔で答えていた。


ケイスケ君と話しながら並び、申し込みが終わったのが1時間後。


急いで更衣室で着替えた後、体育館に行き、顧問に事情を話したら「簿記の申し込みで人だかり?毎年2~3人しかいないのに?もっとまともな嘘つけよ」と、冷たく言い放たれてしまった。


部活を終え、帰る準備をしていると、冷たい目をした顧問から「遅刻してきたんだから、ボールを全部磨いてから帰れ。嘘ついた罰だ」と…


「嘘なんかついてない」って言ったんだけど、顧問は信じてくれず、仕方なく、そのまま一人でボールを磨いていた。

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