第90話 デート

山根さんの共同経営を持ち掛けられ、木村君が断った数日後。


やっとの思いでアニメ制作も終わり、気が付くと年末を目前にしていた。


手伝ってくれたみんなを誘い、忘年会を兼ねて打ち上げをしていると、先生が「2部を書こうと思ってるんだけど、お願いできるかな?」と提案。


木村君は「もちろん、と言いたいところなんですが、人手不足で困ってるんですよね… 現状、経理は親会社に完全に任せてるんですけど、かなり厳しくて…」と、苦い顔をしていた。


先生は「すぐじゃないよ。頭の中で構成を練ってるところだから。形になったら、正式にお願いしに行くよ」と言い、木村君と握手をしていた。


打ち上げの帰りに、木村君と歩いていると、木村君が「年始って暇?もしよかったら映画行かない?」と誘ってくれた。


「良いですよ。そう言えば前にどっかに行く約束してましたね」と言うと、木村君は「覚えててよかった」と優しく微笑んできた。


慌ただしく毎日が過ぎ、あっという間に正月休みを迎え、元旦には木村君と映画を見に行くことに。


大晦日の夜に木村君から『明日、10時に事務所に来てくれる?』とメールが来たので、約束の時間に事務所へ向かった。


事務所に着くと、木村君は車に乗って待っていたようで「早く乗って」と声をかけてくる。


「車で行くんですか?」と聞くと、「うん。ドライブ兼ねてね」と言い車を発進させていた。


二人で食事には何度も行ったけど、こうして二人で、しかも仕事抜きで出かけるのは、初めての事。


木村君と話しながら、ふと運転する横顔を見ると、『かっこいい』と思ってしまい、それと同時に鈍い頭痛が押し寄せてきた。


「どうした?」


「久しぶりに片頭痛が…」


「薬飲み忘れた?」


「最近調子よかったので、飲んでなかったんです」


そう言うと、木村君はすぐにコンビニに向かって走り、水を買ってきてくれた。


お礼を言うと、木村君は「俺もコーヒー飲みたかったから」と言い、車を発進させる。


その後、少し走った後、映画館の近くに車を停め、映画を見ることに。


映画を見た後、食事を取り、車に乗り込むと、木村君が「このまま初詣行かない?」と誘ってくれた。


「良いですよ」と言うと、木村君は車を発進させ、30分ほど走った後、マンションの駐車場に車を停めていた。


「ここに停めて大丈夫なんですか?」と聞くと、木村君は「実家の敷地内だし大丈夫だよ」と言い、車を降りるよう促してきた。


歩きながら「実家がマンションで、息子が一軒家って逆なんじゃないですか?」と聞くと、木村君は「俺もそう思う。けど、二人しか住んでないのに、広い家は掃除が面倒で嫌なんだってさ」と言いながら笑っていた。


「二人?確かお父様って御逝去されてましたよね?」


「ああ、弟だよ。つっても再婚相手の子どもだから、半分しか血がつながってないし、年も離れてるけどな」


聞いちゃいけない事を聞いてしまったような気がして、小声で「すいません」と言うと、木村君は「謝ることないよ。事実だし」と笑い飛ばしていた。


人ごみの中を二人で並び、お参りをした後で少し散策していると、木村君が切り出してきた。


「この辺さ、春に花火大会やるんだ。毎年じゃなくて4年に1回だけど、桜の後ろに花火が何発も上がるんだ。確か次は今年?あれ来年か?今度調べておくから、一緒に見に来よう」


「良いですね!それ見たいです!」


「…昔っから桜好きだったもんな。ずっと美香に見せたかった」


小さく呟くように言われ、「え?」と聞き返したんだけど、木村君は何事もなかったかのように「そろそろ帰るか!」と切り出してきた。


帰宅途中、車に揺られていると、何度か木村君の携帯に電話があった。


Bluetoothに接続してあるから、対応できるはずなんだけど、木村君は対応することもなく、そのまま私の家の前へ。


お礼を言いながら車を降りようとすると、急に「あ、忘れ物!」と言われ、顔を向けると触れるだけのキスをしてきた。


びっくりして固まっていると、木村君は「本当は寄りたいけど、急用入ったっぽいし、休み明けな」と笑顔で言い、私がドアを閉めると同時に発進していた。

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