第89話 チェックメイト
アニメのエンディングに会社名を記載してから、仕事量が一気に増え、元に戻るとまではいかないけれど、8割程度の仕事は復活していた。
そのため、アニメ制作の担当だったケイスケ君は、ヒデさんと二人で作業をしなければならない状態に。
土曜出勤した際、みんなとアニメ制作を手伝っていたんだけど、ケイスケ君はみんなと一緒に作業ができることに、ホッとしているようだった。
今まで、手の空いていた時に、事務を熟していたんだけど、それも不可能となってしまい、あゆみちゃんが週3日だけ復帰。
あゆみちゃんは介護をしながら雑誌を読み漁り、かなり勉強をしていたようで、作業スピードも正確さも以前とは見違えるようになっていた。
アニメのネット配信も、全6話中、第4話まで配信を終えた頃、木村君が親会社に呼び出され、朝から外出していた。
定時過ぎに木村君が戻ってきたんだけど、木村君は疲労困憊と言う感じで、自分のデスクに座り、ぐったりとしていた。
コーヒーを入れて持っていくと、木村君は「山根が親会社にいた」と言った後、コーヒーを一口飲んだ。
ユウゴ君が「は?なんで?」と聞くと、木村君は大きくため息をつき「共同経営持ちかけられた」と言っていた。
これにはヒデさんも黙ってられないと言う感じで「断っただろ?」と聞き、木村君は「当り前じゃないですか」と答えていた。
「うちと組めば白鳳のバックアップが受けられるし、人手不足も解消されるから、一石二鳥どころか三鳥にも四鳥にもなるって。持ち株制度があるから、白鳳の株も買えるって言ってたな。ガタ落ちしてる株なんていらねぇっつーの」
木村君がそう言うと、ヒデさんはクスっと笑い「この前うちにも来て全く同じこと言ってたな。大地と同じこと言ったけどさ」と答えていた。
「給料と従業員の保証はするって言われました?」
「言われたよ。俺の年商8000万だけど100%保証するんだな?って聞いたら逃げたよ」
「やっぱりかぁ。兄貴がデメリットの部分を聞いても答えないし、メリットの部分しか言わないから、絶対に罠だと思ったんすよ。横に浩平と大高が居たし、余計に胡散臭かったんすよねぇ」
『あの二人が居たら胡散臭い』と思いながら、二人の会話を聞いていた。
少し話した後、ヒデさんが「なりふり構ってられないんだろうなぁ… こっちが配信すればするほど、評判も株価も落ちていくし、白百合、まともな仕事はしてないどころか来てないって話だしなぁ。こっちの配信始まった時点で、あそこはチェックメイトだよ。現に圧力が効いてないみたいだし、金も底を尽きたんじゃないのか?」と、呟くように言っていた。
確かにこの忙しさは、圧力の効果がなくなったことを意味していると思う。
『圧力がなくなると、仕事が来るって事は…』
ふと思い立ち、「独占禁止法違反ですか?」と聞くと、ヒデさんは「大正解。随分と時間がかかったな」と笑っていた。
ユウゴ君に「気づいてました?」と聞くと「あったりめぇだろ?お前と一緒にすんな。つーかお前鈍すぎじゃね?それ以外にもなんかありそうだけどな」とドヤ顔で言ったまでは良いんだけど、『それ以外の何か』を聞いても答えてはくれなかった。
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