第77話 炎上

真由子ちゃんの嘘を指摘した日、定時を迎えると同時に真由子ちゃんは更衣室へ。


先を越されたんだけど、1階で着替えているのは真由子ちゃんだけ。


私は2階だから問題ないんだけど、問題はまた籠城されないかどうか。


少し不安になりながら片付け、木村君と2階に行って着替え終え、荷物を持って1階に行くと、ユウゴ君が「さっさと行くぞ」と言ってきた。


「今日は籠城なしですか?」と聞くと、ユウゴ君は「籠城しようとしてたから、タルトの事聞いたら逃げた」との事。


『しつこく聞いたんだろうなぁ…』と思うと、真由子ちゃんに同情したくなってしまう。


『まぁ、籠城されるよりはマシか』と思いながら車に乗り込み、別荘へ向かった。


別荘へ向かっている途中、けいこちゃんからメールがきた。


『だいちゃんと監督と先生が、3人で出し合ってパティスリKOKOのタルト買ってきた!しかもホールで!苺とチョコだよ!!一番デカい奴だよ!!』


思わず「マジで?」と声に出してしまうと、木村君が「どうした?」と聞いてきた。


メールで着たことを木村君に報告すると、ユウゴ君が「大地、飛ばせ」と…


木村君はハンドルを握りながら「事故りたくねーよ」と言いながら笑い、ユウゴ君は少し不貞腐れた様子。


話しながら別荘に着き、中に入ると、みんなは飲みながら話している最中だった。


監督と先生、カオリさんまでもが揃っていたんだけど、ヒデさんが「座ってくれ」と切り出した。


ヒデさんはみんなで作ったOPのカット割りを決め、自分でつなぎ合わせる作業を自宅で行っていたようで、「完成披露会思い出すな」と言い、大きなテレビに映像を流した。


テンポのいい音楽と共に、メインとなるキャラクター達が、それぞれの個性を出しながら音楽に合わせるように動いている映像。


2分もかからない映像だったんだけど、終わったときには歓声が上がるほどだった。


ヒデさんがUSBを先生にプレゼントすると、先生は感動のあまり涙ぐんでしまい、何度も感謝の言葉を声に出していた。


夕食後、差し入れのタルトを均等に分け、2種類のタルトがお皿に乗ると、みんなで「贅沢すぎる!」と歓喜の声が上がる。


食べながら話していると、ユウゴ君が「美香、お前甘い物嫌いじゃなかった?俺食ってやろうか?」と…


断固拒否すると、今度は木村君に声をかけ、木村君も断固拒否。


あまりにも高価すぎるせいか、みんなは隠しながら食べていた。


タルトを食べ終え、みんなで話していると、けいこちゃんが「そう言えば、今日から放送じゃなかった?」と聞いてきた。


先生は「見ないほうが良い」って言ってたんだけど、そんなに言われると、怖いもの見たさで見たくなってしまい、テレビをつけた。


テレビをつけたまましばらく話していると、聞き慣れた音楽が始まり、酷評の嵐だったOPが始まる。


1部の最後は、主人公の女の子がモンスターに切りかかるシーンで終わっていたんだけど、2部の頭はいきなり謎の男性が出てきて、道を歩いているシーンから始まっていた。


『誰これ?』と思っていると、主人公の女の子が謎の男性に抱きつき「好き好き」言い、男の子がうろたえているだけでCMへ。


けいこちゃんは無言でテレビを消し、私は無言のままパソコンの前へ。


みんなも悟ったかのように、無言でパソコンの前に着いたんだけど、誰一人として口を開かない。


ネットの掲示板を見てみると、案の定、酷い叩かれっぷり。


シーンと静まり返る中、カオリさんと先生、監督とヒデさんがダイニングで話していたんだけど、先生の言葉に耳を疑った。


「注目度が高いとみんな自然と見るだろ? それが原作とあまりにもかけ離れてたら、ファンは怒りをネットに書き込む。 書き込みを見た人が、それを確認するために原作を読んでアニメを見る。 でも、内容があまりにもかけ離れてるから、ネットに怒りを書き込む。 それを見た人間が原作を見て、アニメを見て、ネットに書き込む。 端から炎上させることしか頭に無いんだよ。 山根のやつ」


「山根さんの指示だったんですか?」と、思わず声を上げてしまうと、カオリさんが私を手招きし、カオリさんの隣に座ると、肩を組んできた。


「あいつ、かなりやばい事してるみたいだよ。 詳しくはわかんないけど、相当やばいっぽい。 絶対に関わらないほうが良いからね」


「…わかりました」と言うと、カオリさんは「良い子ねぇ」と言った後、ほっぺにキス。


『出来上がってられましたか… まじめな話してたから気が付きませんでした』と思いながら、話を聞いていた。

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