第75話 リーク

真由子ちゃんの差し入れに恐怖を感じ、誰も手を付けなかった翌日から、制服や荷物を2階にある木村君の家に置き、木村君の家で着替えるように。


と言うのも、話を聞いたケイスケ君が「一緒に住んでるって言ってるのに、更衣室で着替えるのっておかしくね?」と言ったのがきっかけ。


木村君は「それを言ったら通勤してるのもおかしいよな。居候する?」って聞いてきたけど、断固拒否し、着替えだけ木村君の家でする事に。


木村君の家で着替えるようになった数日後。


いつもより早い時間に出勤し、2階で着替えた後、木村君と1階に行くと、真由子ちゃんがニヤニヤしながら「別居してるんですかぁ?」と聞いてきた。


木村君が「引っ越しが完全に終わってないから、忘れ物を取りに行っただけ」と言うと、真由子ちゃんは「そうだったんですねぇ」と、ニヤニヤしながら言っていた。


『なんだ?あの顔、嫌な感じ』と思いながら始業時間を迎え、作業をしていると、木村君の携帯に電話があり、木村君は「親会社行ってくる」と言い、事務所を飛び出した。


定時になっても木村君は戻らず。


定時を過ぎると、着替え終えた真由子ちゃんは、私に向かってにっこりと笑い「お疲れさまでした」と、語尾に音符が付きそうな口調で言った後、事務所を後にしていた。


「なんですかね?あれ」と聞くと、ケイスケ君が「わかんないけど気持ち悪かった」と言い、ユウゴ君は「昨日のタルトでも食ったんじゃね?」と…


「副社長と一緒かぁ…」と小声で言うと、ユウゴ君は「俺は食ってませんけど、何か言いましたかぁ???」と、空のペットボトルで、私の頭を細かく連打しながら言ってきた。


「やめてください。パワハラです」と言うと、ユウゴ君は連打したまま「お前の発言も逆ハラですぅ。精神的に傷つきましたぁ」と…


「難しい言葉なのに、ご存じだったんですね」と言うと、「逆ハラだっつーの」と言いながら、ポカっと良い音を立てていた。


その後も軽く言い合っていると、疲れ切った様子の木村君が帰社。


木村君は椅子に座ると「兄貴にバレた…」と、ため息交じりに言ってきた。


「バレたって?」とユウゴ君が聞くと、木村君は「美香が俺の子を妊娠してるって嘘ついたこと。大高が直接兄貴にリークしたって。マジで勘弁してくれよ…」と、嘆くように言っていた。


「で?兄貴に嘘だって言ったん?」


「言ったよ。そうでもしないと、毎晩電話がかかってきて困るって言ったら、自分で対処しろってさ。解雇するって言ったら、解雇事由がないって言うし、親会社送るって言ったら、うちはいらないって言うし…。兄貴も相当しつこく言い寄られたらしくて、こっちに回したらしい。とにかく個人の問題に従業員を巻き込むなってさ。どうしたらいいんだろうな?」


「んなん簡単じゃね?孕ませて、個人の問題じゃなくしちまえばいいじゃん」


「はぁ!?何言ってるんですか??」


「孕ませれば、接近禁止令だせるだろ?」


「何言ってるんですか?」とユウゴ君に言うと、木村君は「それもありだな…」と…


「嫌です!絶対嫌です!」と断固拒否していると、木村君は「そこまで言われると傷つくなぁ…」と言い、魂が抜けたように2階へ上がっていた。


これから2階で着替えなきゃいけないのに、2階に行くのが気まずくて仕方ない。


『もしかして、本当に傷つけた?』と思いながら、恐る恐る2階への階段を上がっていた。

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