第74話 恐怖

遊びで作っていたOPが、原作の先生に喜ばれた週明けのお昼。


この日は真由子ちゃんが休みのはずだったんだけど、お昼休みを狙ったかのように、事務所に入ってきた。


真由子ちゃんは「差し入れで~す。休憩室に置いておきますね」と言い、休憩室に行ったまま事務所に来ない。


「また籠城ですかね…」と小声で聞くと、木村君は「さぁ?」と不思議そうな感じ。


しばらく経っても戻って来ないので、仕方なくあゆみちゃんとお昼に行こうとしたら、木村君が「ケイスケ悪い、俺先行くわ」と言った後「美香、あゆみ、食いに行こうぜ。おごる」と言い、3人で食べに行くことに。


近くの定食屋さんで木村君があゆみちゃんに向かい、この前嘘をついたことを言うと、あゆみちゃんは大爆笑し、「OKOK。合わせるわ。つーかマジウケるんですけど」と…


食事と言う名の打ち合わせを終え、3人で休憩室に入ると、真由子ちゃんはソファに座り、携帯を弄っていたんだけど、私たちに気が付くなり「3人なんて珍しいですね」と。


木村君は私がソファに座ろうとすると、やたらと気を使いながら座らせる。


『怖いけど合わせなきゃ』と思い、「そんなに気を使わないで大丈夫ですって」と言うと、真由子ちゃんが「敬語なんですね」と、疑うような目で見てきた。


すると木村君が「仕事中はな。ここでは上司と部下」と、誰もが納得せざるを得ない言葉を、吐き捨てるように言い放った。


「質問なんですけど、何か月なんですか?」という質問にも、木村君は「2か月」と淡々と言う。


「つわりはないんですか?」と言う質問にも、木村君が「まだ大丈夫そうだよな」と代弁。


『私に話させようとしてない? これは楽かも』と思っていたら、「美香さんに聞いてるんで、社長は黙っていただけますか?」と言われてしまった。


が、これにも木村君は「俺に黙れって言うなら出てけ。ここは俺のテリトリーだ」と、真由子ちゃんを睨みつける。


すると真由子ちゃんは恐怖を感じたのか「冗談ですよぉ。そんな本気にしないでくださいよぉ」と甘える声を出していた。


木村君はため息をつきながら私の肩に腕を回し、あゆみちゃんが冷やかすように「熱いねぇ。ここは南国か?」と言いながら、手のひらで顔を仰ぎ始めた。


「しっかし念願叶ってホント良かったよねぇ。一時期すんごい荒れてて、マジ怖かったよ?」とあゆみちゃんが言うと、木村君が「まぁな」と答える。


「高2の時だっけ?美香っちに告った男ボコったの。俺の女に手出すな的な?」とあゆみちゃんが言うと、木村君は「あー。そんなこともあったなぁ」と、少し歯切れが悪い感じになっていた。


「あいつ超しつこくしてたんでしょ?」


「そうだったかなぁ」


「ボコったら中退したって言ってたじゃん」


「あゆみ?昔のことはもういいと思うぞ?美香が知らないこともあるんだし、掘り返さなくても良いんじゃないか?」


「は?別によくない?夫婦なんだから全部知ってても良いんじゃない?」


「そりゃそうだけど… そろそろ時間だ。行くぞ」


『あ、逃げた』と思いながら3人で休憩室を出ると、木村君はあゆみちゃんの頭をペシっと叩き、「調子乗りすぎ」と口を動かさずに小声で言っていた。


ケイスケ君とユウゴ君が休憩に入ると、休憩室からユウゴ君の「お前まだ居んの?邪魔だから帰れよ。そこに居たら寝れねーだろ?暇なんか?帰る家無いんか?金無いんか?」と立て続けに言う声。


『この人が一番怖い』と思っていると、真由子ちゃんはふてくされたように休憩室を後にし、無言で帰宅していた。



定時後、真由子ちゃんが持って来た差し入れを、みんなで見ながら考えていた。


箱はパティスリーKOKOなんだけど、開け口に貼ってあった、賞味期限のシールが一部破れているし、中身はパティスリーKOKOのチョコレートタルトじゃない。


あゆみちゃんが「…雑誌と違くない?」と聞いてきたので、「これ全然違うよ?本物は金箔が乗ってるはず。1回食べたことある」と答えた。


ユウゴ君が「じゃあどこの?」と聞いてきたけど「わかんないです」としか答えられない。


ケイスケ君が「食べられるものだよね?」と聞き、木村君が「保証はないな。俺はパス」と…


結局、みんな食べることを拒んでいたんだけど、ユウゴ君だけはずっと悩み続け、木村君に「怖いならやめておけ」と言われていた。

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