第67話 呆然

別荘の中に入り、リビングを見た瞬間、木村君とユウゴ君、ケイスケ君の3人は呆然と立ちすくんでいた。


リビングの中では、専門用語が飛び交い、時々怒号が飛んでいる。


「なにこれ…」とユウゴ君がつぶやくと、私に気付いた大介君が「美香!何してんだ遅ぇぞ!早く3D起こせ」と怒鳴ってきた。


「すぐ行く!」と返事をした後、パソコンの前に座り作業をする。


どれもこれも、いつもと変わらない光景なんだけど、3人はひたすら呆然としていた。


しばらくした後、ふと気が付くと、3人は監督と共に、キッチンからカレーの匂いのする大鍋や米の炊けた大きな炊飯器、大きなボールに高く積まれたサラダと大皿に盛りつけられたフライドチキンをテーブルに並べていた。


監督はトレーと食器を運んだあと「お前ら飯だぞ~」と大声でみんなを呼び、みんなは「はーい」と返事をした後、1列に並び、バイキング形式で自分の食事をよそう。


ソファの前にあるテーブルの上に食事を置き、全員が揃ったところで一斉に食べ始める。


普段通りの、大家族のような光景に、3人は呆然としていたんだけど、ヒデさんに急かされ食事を準備し、私の横に座っていた。


ユウゴ君が「なにこれ?」と小声で聞いてきたんだけど、監督がついさっき作ったばかりのOPの一部を、大きなテレビに映し出し、「ここはこうしたほうが良いな」と、大介君にアドバイス。


これにケイスケ君が気付いてしまい、「もしかして、2部のOP?」と聞いていた。


するとけいこちゃんが「そうだよ。悔しいから遊びで作ってるの。ってか、成金のボンボンがいる!」とユウゴ君の事を指さし、大声を上げた。


ユウゴ君はやっと気づいたようで「こないだの無礼者!」と…


『もう放っておこう』と思いながら、黙って食事を取っていた。


食事を取り終えた後、再度作業に入ったんだけど、木村君とユウゴ君はヒデさんに捕まり、編集作業を手伝わされる羽目に。


ヒデさんは「遊びだから飲みながらやってよ」と言いながら、二人に缶ビールを手渡していた。


ケイスケ君は編集ができないせいか、コーヒーを入れるよう命じられたり、食べ物を持ってくるよう言われたりと、お手伝いさんのように働かされる。


しばらく作業をしていると、ユウゴ君がこそっと「いくらもらってんの?」と聞いてきた。


「遊びだからノーギャラですよ?食費も割り勘だし、後日請求が来るはずです」と言うと、がっくりと肩を落としていた。


そのまま作業を続け、しばらくすると大介君に「美香~風呂空いたぞ~入れ~」と呼ばれ、「はーい」と返事をする。


急いで着替えをもってお風呂に入り、お風呂から出た後に「けいちゃ~ん。あいたよ~」と声をかけると、けいこちゃんは「は~い」と返事をしていた。


水を飲みながら椅子に座ると、隣に座っていた木村君に「いつもこんな感じ?」と聞かれ「そうですよ」と普通に答えた。


「大家族みたいだな」


「ですね。みんな有給使って昨日からここにいるみたいです。羨ましいなぁ」と言いながらチラチラ見ると、木村君はそっぽを向いてしまった。


『作戦失敗。 てか、クビになるかもしれないのか…』と思いながら作業を続けていると、カオリさんがリビングに入ってきたんだけど、木村君はカオリさんを見るなり、立ち上がって一礼。


カオリさんは木村君を見るなり「よぉ成金ボンボン」と…


木村君は顔をひきつらせながら「先日は大変失礼いたしました」と言うと、カオリさんは椅子に座り「仕事じゃないんだから、んな堅苦しいこと言うなって!」と言った後、キッチンに向かい「ビール!」と大声を上げ、ケイスケ君がササっと缶ビールを持って来た。


『なんか板についてる。うちの常務取締役なのに… 悲しいなぁ…』


そう思いながら作業を続けていた。

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