第59話 見返す

アニメの新OPを見た翌日になっても、落ち込んだ気持ちは変わらなかった。


作業をしているときも、頭の中に『代表取締役:山根 明菜』の文字が浮かび、大きくため息が出てしまう。


流石に見かねたのか、ユウゴ君が「なぁ、そのため息何とかならねぇの?」と聞いてきたんだけど、口から出るのはため息だけ。


お昼休みになると、あゆみちゃんが「たまには食べに行かない?」と誘ってくれたんだけど、どうしてもそんな気持ちにはなれず。


「今日はちょっと…ごめんね」と苦笑いを浮かべるだけだった。


お昼を食べた後、携帯を眺め、大きなため息をつく。


すると携帯が鳴り、同じプロジェクトに参加していた『けいこちゃん』の文字が浮かび上がった。


急いで外に出て電話に出ると、けいこちゃんは「お久しぶり~」と、音符が出てきそうな声。


「お久しぶり~元気?」と聞くと、「美香よりは元気かな?新OP見てへこんでるっしょ?」と、私の心境を見透かしていた。


「うん…まぁね」


「監督から聞いたよ?『社長が断固反対してるから参加できないと思う』って。その結果あれでしょ?そりゃへこむよねぇ。ってかさ、遊ばない?」


「遊ぶ?いつ?」


「今日って言いたいけど週末。うちに来てよ。良いものもらったからそれで遊ぼ」


「良い物って何?」


「例のアニメの新OP素材。原作者が書き下ろして没になった背景画とか、3面図とかいろいろあるよ。原作者様直々にもらっちゃった!うちらで勝手に作っちゃわない?」


「ホントに?でも良いのかな?」


「公表しなければいいでしょ!自己満足ってやつ。裏で見下してやろうぜ!!」


「やる!絶対やる!仕事終わったらすぐに行くね!」


「OK!とりあえず、待ちきれないから一部はメールで送るわ!」


その後少しだけ話をし、電話を切った後、今まで落ち込んでいた反動なのか、一気にやる気が膨れ上がってきた。


前職の時に、何故『見返す、見下す』と言う考えにならなかったのかはわからない。


それだけ追い詰められてたって事なのかもしれないし、孤立せざるを得ない状況になっていたから、あんな風になってしまったのかもしれない。


『絶対に見返して、見下してやるんだ!』


そう思うと、自然と指が動くスピードが上がり、周囲はポカーンとしていた。


さっきまで動いているのか動いていないのかわからないような感じだったし、ため息ばかりだったのに、昼休み明けにいきなりスピードがアップし、ため息もつかなくなったら、誰もが呆気に取られるだろう。


そんなことは気にせず、さっさと仕事を終えた後、急いで帰宅した。


帰宅してすぐにパソコンを立ち上げ、メールチェックをすると、けいこちゃんからメールが来ていた。


添付されていた圧縮フォルダを開けると、創作意欲が湧いてきて、ワクワクした気持ちを抑えきれない。


『ごはん… あ、レトルトのおかゆがあったはず!』


作業をしながらおかゆを食べ、時間を忘れるほど夢中になっていた。


一つの作業が終わり、ふーっと大きく息を吐くと、時計が視界に入り、『AM0:42』と表示されている。


急いでシャワーを浴び、ベッドに潜り込んだ時には午前2時半過ぎ。


『早く寝なきゃ』って思うんだけど、創作意欲が静まらず、なかなか眠れずにいた。

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